放課後になり、教室で有希と二人。今朝の続きを聞いてもらっていた。

「蒼汰くんってね、同じ年で。なんか素直な感じの人なの。私のことずっと気になってたって言ってもらった」

「へぇ、今度会ってみたいな。で、帆乃香はどうするの? もう返事したの?」

「ううん。まだ返事していないよ。良さそうな感じの人だけど、もう少しどんな人なのか知ってから返事しようと思ってる」

クラスの皆は部活へ行ったか帰宅したと思っていたのに、急に教室のドアが開き、私たちを覗き込む人。

島田くんだった。

「何やってんだよ、下で待ってても来ないから。すれ違ったかと思って焦っただろ。帆乃香、帰るぞ」

急に島田くんにそんなことを言われて。

有希が私と島田くんを交互に見てから、

「帆乃香、島田と帰る約束してたの?」

「ううん、約束はしてないけど・・・。あの、島田くん。帰る約束してないよね?」

「送ってくよ。これから毎日。だから早く帰る準備しろよ」

「えっと、それはどうしてかな?」

私の頭が追い付いていない。急に島田くんは何を言い出すんだろう。

「ま、そう言うことなら今日は島田と帰りなよ、帆乃香。私は彼氏の部活を見に行くからさ。じゃーね。島田、送り狼しないでよね」

「ばっ! するかよそんなこと」

止めて、有希! 意識していなかったのに島田くんのこと意識しちゃうでしょ。

何故か私の顔が赤くなって。まともに島田くんを見られなくなってしまった。

私は有希と教室で別れて、何でか分からないまま島田くんと駅に向かって歩いている。

私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる島田くん。

隣に並んでいるけど私たちの間にもう一人、人が入れるくらいの距離を保っている。

特に会話は無くて。島田くんは何を考えているんだろう。

向かい風に乗って島田くんの柑橘系の香りが私の鼻先をかすめる。

駅に着き、ホームに立つ私たち。

昨日初めて会話をした人。

そんな人と一緒に帰っているなんて、とても不思議な光景。

電車が来ると、島田くんは私を先に電車へ乗せてくれて。

ドアの脇に2人で並んで立つ。電車の中でも特に会話は無い。

この沈黙が耐えられなくて、島田くんに質問してみた。

「あの、島田くん。どうして送ってくれるの?」

「別に。帰る方向が一緒だから?」

「ふふっ、変な島田くん。こっち方面に帰る子なんて沢山いるのに」

「なぁ、島田くんじゃないんだって。郁人だから。なんでアイツのことは名前で呼んでんのに俺は島田くんなんだよ」

「え? アイツって誰? 蒼汰くんのこと?」

「蒼汰? ああ、あの電車の男か。そいつじゃないけど」

「他に名前呼びしてる人なんていないけど・・・?」

「いるだろうよ。あのクソガキに」

本当に変な島田くん。

私、有希と蒼汰くん位しか名前呼びしていないんだけどな。

しかもあのクソガキって・・・。誰のこと?

そんな会話をしていると私の降りる駅に電車が到着して。

「あの、私この駅だから。送ってくれてありがとう」

「俺もここだから」

えっ? 嘘だよね? だって島田くんとは同じ中学じゃないよ。

この駅を使う人なんて同中しかいないと思うんだけど。

「じゃ、送ってくれるのはここまでで大丈夫だから。さよなら」

さよなら、って島田くんに言いながら、駅のホームの時計を見る。

この時間だとまだお母さんたちは家にいる時間。

どうしよう、どこで時間を潰そうか。あの公園はしばらく行きたくないしな。

急に歩く速度が遅くなった私を不思議に思ったのか、島田くんが足を止めて私に質問をしてくる。

「帆乃香はさ、なんでいつも家に帰りたがらないんだ? いつもあの公園にいるよな」

島田くんの予想外の質問にびっくりした。