お年頃だったし、テニス部などに憧れがなかったわけではないが、私は、毎日仕事でクタクタの母に家事までさせたくはなくて、中学生になっても、運動部に入ることはしなかった。

家事は私が全てやって、成績もキープするためには、運動部で体力を消耗させるわけにはいかない。

あまり体力のあるほうではなかったから。



ある日、道哉の家にお邪魔していたら、流しをやっているという、道哉の従兄にあたる人が来ていた。

「なにか好きな歌があれば、歌ってみない?」 

道哉の従兄に言われ、何故か咄嗟に「池上線」と答えた。

「とても…今時の中学生の選曲とは思えないね」 

お兄さんは笑いながらも、ギターを弾いてくれたので私は歌った。

道哉は、ちょっと驚いていたが、

「紫苑ちゃんって…そんなに歌上手かったの?折角だから、もっと多くの人に聴かせたらいいのに。勿体ないよ!」

そんなことも言われた。

そのことに、道哉の従兄も賛成し、もう使わなくかったギターを今度あげるよと、次に会ったときには本当にくれた。

私は見よう見まねでギターを覚え、なんとか弾き語りができるようになった。



中学校で最初の文化祭、人数の少ない家庭科部だった私は、ブラスバンド部のように特に何か発表するものもなかったので

「文化祭での出し物の立候補者募集」

そんな貼り紙をぼんやり見ていたが、意を決して、弾き語りで出演すると立候補した。

そのときに歌ったのは、バングルスの「Eternal flame(胸いっばいの愛)」だった。

その頃は、特に歌詞の意味をさほど考えていなかったものの、Eternal flame…つまりとこしえの炎というのは、私たちの穏やかな愛情なんだ…今はそう思う。