幹部室に戻って、そっとドアを閉めた時。
思わずふうとため息が漏れた。
昼間の陽太の言葉が、あたしの頭の中をぐるぐると回っている。
『箝口令はしかれてないです。綾さんと、連絡を取るなとも言われてないです。そこらへんは、自由にしろ、と』
『じゃあ、なんで綾の話をしないの?』
気にはなるはずだ。
ここを裏切った男。
しかし、最終的には、戻ってきた男。
彼が今、いない理由を気にする人はいるはずだ。
『みんな、和佳菜さんの前では言わないですよ。コソコソ話はしてます』
『どうして、あたしの前では話をしないの?』
あたしの疑問に、陽太はふっと表情に影をもたせた。
『そりゃ、気まずいからですよ』
『気まずい?』
『和佳菜さん。綾さんが今、どんな立ち位置にいるかもわかってないっすよね?』
『そうね』
『表向きは獅獣から去ったことになってますが、まだ籍は残ってるんです。和佳菜さんは、あの時相当辛い立場にいましたから、その事実は知らない方がいいんじゃないかって、下っぱで話してたんです』
瞳が大きく揺れ動いたのは、きっと気の性なんかじゃない。
『…籍、残っているの?』
『はい』
『綾はやめていないのね?』
『はい』
『本当ね?』
『こんなことで嘘はつかないすよ』
陽太が柔らかく笑う。
視界が薄らに膜を張った気がした。
『よかった』
漏れ出た言葉は、あたしがずっと言えなかった言葉。



