蒼の花と荒れる野獣 番外編



枯れた桜の花弁を見つめる。


NYの春は寒いのだろうか。


遠いアメリカはあたしにとっては、故郷で。


かけがえのない居場所でもある。


NYには、縁がないけれども、隣の市にはあたしを救ってくれたブラウン夫妻たちが住んでいる。


ああ、ブラウン夫妻に会いたくなってきた。


あたしがまだアメリカにいた頃、蓮を失って途方に暮れていたあたしを救ってくれたのは、おじさまとおばさまだった。


あの国にはさまざまな思い出詰まっている。


行きたいとか、行きたくないとか、そんな一言で片付けられるような話ではないのだ。


今すぐには、少し資金的にも厳しい。


実家から、離れるために色々なものを準備したから、貯金はそこをついてしまった。


仁に言えば、全てを準備してくれそうな気もするけども。


…緊急事態でもないのに、彼に頼るのも違うわね。



『また、手紙を書くわね』


なんて、頭の中で過去の自分の言葉が反芻した。


そうだ、手紙をだそうかしら。


しばらく忙しくて出せていなかったけれども、きっと喜んでくれるわ。


レターセットなんて、買ったかしら。


ガサゴソと机を漁るけれども、出てくる様子は見えない。


「まずは買うところから、…かしらね」


自嘲的に笑ったあたしは、総会やなんやらで2日前から帰らぬ恋人にレターセットを買ってくる、と書き置きを残す。


「和佳菜さん、お出かけですか?」


「陽太」


トートバッグを肩にかけて、倉庫のシャッターをくぐり抜けようとした時、振り返ったその声は確かに陽太の声だった。


仁の側近である彼はどうやら、最近幹部補佐に昇進したらしい。


「ええ、レターセットを買いに」


「お供しますよ」


「いいわよ。私用だし」


「なんだっていいですよ。俺らのオヒメサマであることに変わりはないんすから」


こういうところはずっと変わらない。

獅獣の姫ではもうない気もするけど、ここに入り浸っている以上、彼らにとってはあたしは姫らしい。


「じゃあ、お願いしようかしら」


この人のあたしを大事に思う気持ちに傷はつけたくない。


「バイク持ってきますね」


「いいわよ。本当に、そこの雑貨屋さんまでなの」


「でも…」


「寧ろ、迷惑になってしまうから、帽子だけ持ってきてちょうだい」


「…帽子、ですか?」


怪訝な顔をする陽太に、ニコッと笑う。


「今日は暑くなるらしいわよ」