「……行かせたくなかったから」


「え?」


「市条先輩のところに
 結菜ちゃんを行かせたくなかったから」


 一輝くんが噓をついた。
 その理由。

 わかることだった、よく考えたら。



 私のこと。
 どう思っているのか、一輝くんが。


 よく知っている。
 それなのに。
 わからなかった、全く。

 一輝くんの噓。
 その理由が。


「そんなこともわからないなんて、
 結菜ちゃんは……」


 一輝くんの気持ち。

 わかっている、ちゃんと。
 そう思っていた。


 だけど。
 まだまだ、だった。



 人の気持ち。
 それを理解する。

 そのことは難しい、本当に。
 そう思った。


「でも」


 だけど。


「『でも』、なに?」


 知らない、一輝くんは。

 拓生くんが私のことをどう思ってくれているのか。


「拓生くんは友達なのに?」


 だから。
 一輝くんから見れば。
 私と拓生くんは友達。
 そのはず。


「はぁ⁉」


 それなのに。
 一輝くんの反応。

 呆れている、私に。
 そう見える。


 私の発言。
 あったのだろうか、何か問題が。


「あのねぇ、そういう問題じゃないの。
 友達だろうがなんだろうが『男』だから嫌なの」


「えっ⁉」


 一輝くんの言葉。
 その言葉に思わず出してしまった、驚きの声を。


「『えっ⁉』じゃないよ。
 本当に結菜ちゃんは~」


 そう言った一輝くんの表情(かお)
 呆れている、ますます。
 そう見える。


「それに……」


 一輝くんは呆れた表情(かお)から少しだけ真剣な表情(かお)に。


「それに?」


『それに』
 その言葉の続き。
 何を言うのだろう、一輝くん。


「特に市条先輩はダメ」


 え?

 ダメ? 特に?
 拓生くんは?

 なぜだろう。


「どうして特に拓生くんはダメなの?」


 そう思った。

 なので訊いてみた、一輝くんに。


「どうしてって……
 市条先輩は結菜ちゃんのことを……」


「え?」


「なんでもない」


 一輝くん?

 どうして止めてしまったのだろう、話を。





 って。

 もしかしてっ。


 気付いているっ⁉ 一輝くんはっ。
 
 拓生くんが私のことをどう想っているのかを。



 そんなことが頭の中をグルグルと回っている。

 だけど。
 それ以上、一輝くんに訊くことができなかった。