「はぁ....」


「また面接落ちちゃった.....」





これでもう9回目。



そろそろヤバい。



特になりたいものも、やりたいこともなく手当たり次第に面接を受けてきた。




しかし、どの会社も結果は不合格。



「はぁ.....」




何回目か分からないため息を吐いて、私はふと足を止めた。



「クリスマスケーキはいかがですか?」




サンタコスのお姉さんが、クリスマスケーキを販売している。



「そっか、今日クリスマスなんだっけ...」



そんなこと、とっくに忘れてた。



まぁ、クリスマスなんて好きじゃないし。



むしろ、私はクリスマスが嫌いだ。



サンタさんに欲しいものをお願いしたり、家族でクリスマスケーキを食べたり.....。



さらには、恋人とあんなことやこんなこと。




私には、そんな思い出はない。




今まで、家族でクリスマスケーキを食べたことはほとんどなかった。




サンタさんに欲しいものをお願いしたこともない。




だから今更、私には何の関係もない話だ。




「早く帰ろう.......」



そう思って足を進めた時、誰かに呼び止められて
再び足を止めた。



「お客様」



さっきのサンタコスのお姉さんだ。




とてもキラキラした笑顔でこちらを見ている。




「クリスマスケーキはいかがですか?」




そう言うと、手に持っていたケーキの箱を差し出した。




「いえ、大丈夫です」




すると、お姉さんは眉間にシワを寄せる。




「困ったなぁ......」




「え?」




「これ、売れ残っちゃったのよね.....」




「でも、捨てるのはもったいないし....」



「私が食べようにも、ケーキは苦手だし....」



そう言いつつも、お姉さんはチラチラとこちらを見てくる。




まるで、貰ってくれって言ってるような.....。




私も、ケーキはそんなに好きじゃないんだけどな。





「あの、私────」




断ろうとしたとき、お姉さんの言葉に遮られた。




「これ、きっとあなたの役に立つと思います。」




え?




役に立つって?




どういうこと?




困惑している私に気がついたのか、お姉さんは優しく微笑んだ。



「クリスマスの夜に、奇跡は起こるんですよ」




え?




この人は、一体何を言っているの?




よく分からずにたじろいでいると、お姉さんは再び優しく微笑んだ。




「あなたは、サンタさんを信じてますか?」




────サンタさん




赤色に白いフワフワの付いた服を着て、白い髭を生やした少し太っているおじいさん。




手には大きな袋を持っている。




その中には、たくさんの子供たちへのプレゼントが入っている。




トナカイのそりに乗って、子供たちにプレゼントを届けに行く。





私は、そんなもの信じていない。




というか、サンタさんなんていないと信じ込むしかなかった。




「いえ......」



ポツリとそう返すと、お姉さんは納得したように頷く。



「じゃあ、これはあなたにピッタリですね」




すると、お姉さんはケーキの箱を私に押し付けた。




「あなたに、サンタさんから素敵なプレゼントが届きますように。」




「いや、だからサンタさんは信じてな────」





....い。と言い終わる前に、お姉さんは「じゃあ、良いクリスマスを!」と笑顔で去っていった。




「これ、どうすればいいの....?」




その場に残された私は、なかば無理やり押し付けられたケーキの箱を見つめる。




何のケーキが入ってるんだろう。



チョコケーキなら、食べたいかも。




そう期待を込めて箱を開けると、出てきたのは予想外のものだった。



「え?」




「何これ?」




入っていたのは、1枚のチラシ。




1番上に、とても大きな文字で『バイト募集中!』と書かれている。




「バイト?」




その下にある文字には、『サンタのバイトやってみませんか?』と書かれている。




ああ、あの人.....。




バイトの勧誘のために......。




「はぁ.....」




呆れてため息を吐いたとき、私はある文字が目に止まる。




『時給1000円!』




時給、1000円!?




ケーキを販売する仕事って、そんなに時給いいの?



でも、あのコスプレはさすがに恥ずかしい....。




「でも.....」




こんな時給の良いバイト、他にないかも.....。




これを逃したら、私は一生仕事につけないかもしれない........。



私は、思い切って書かれている番号に掛けてみた。





プルルルル.....




プルルルルルル....




「はい、もしもし」




「こちら、サンタの国でございます」




電話に出たのは、優しい声のお姉さん。




「あの、そちらでバイトを────」




言い終わる前に、電話口から興奮した声が聞こえる。



「バイト希望者ですか!?」




「は、はい」




「ありがとうございます!」




「では、さっそくですが今からお迎えに上がりますので」




え?




今から?




「こちらの指定する場所でお待ちいただけますか?」




すると、ピコンと指定場所の地図が届いた。




「では、後でお会いしましょう!」




そう言うと、お姉さんはプツンと通話を切った。




とりあえず、この場所に行けばいいのかな。





私は、地図の場所に向かって足を進めた。