もはやコントのようなやり取りに発展しつつあり、心の奥底から帰りたいと叫び出したい衝動に駆られたその時、タイミングがいいのか悪いのか、キィ〜ッというドアが開く音がして即座に振り返る。


そこには、明らかに私たちのやり取りを聞いていたであろう私の同期である相楽が、ものすごく気まずそうな表情でうつむき加減に立っていた。


「さっ、相楽さん!お疲れ様です!」

さすがに先輩である相楽の登場に逢坂くんも私の手を離し、指輪を隠して立ち上がって挨拶している。
相楽はというと、ぼりぼりとくせっ毛の髪をかきながら
「あ、うん…お疲れ」
と曖昧な返事をしてこそこそと自分のデスクへ急ぎ足で向かっていた。

そしてデスクに置きっぱなしのジャケットを手に取って、チラッと私を見てきた。
なるほど、ジャケットを忘れて取りに戻ってきたところへこの状況に鉢合わせしたようだ。
彼からすればバットタイミング。私からするとグッドタイミング。


「さ、相楽!」

藁にもすがる思いで彼の名前を呼ぶ。

「迎えに来てくれたの?ありがとう!」

「え?は?」

なにがなんだか分からない様子の相楽の隙をついて、私は目にも止まらぬ速さでデスク周りを一瞬で片付けて逢坂くんのそばから逃げた。
逃げた先は相楽の隣である。

長身の彼の腕に自分の腕を絡ませて、逢坂くんに渾身の演技を披露した。

「逢坂くん…ごめんね。みんなには隠してたんだけど、相楽とこういうわけなのよ…。せっかくの気持ちだけど、受け取れない」

「おい、大原ちょっと待て」

もがこうとする相楽の腕を、私は力いっぱい引っ張ってキープ。
もうヤツの顔など見てもいない。見たら絶対に引いてる顔をしているに違いないから。


「そ、そんな!来海さんと相楽さんが…そんな…」

愕然とする逢坂くんの手からポロリと水色の例の箱が落ちる。
ああ、胸が痛い。でもごめん!無理!


ゲシッとヒールで相楽のスネを軽く蹴ったら、「ぐぇっ」というカエルのような悲鳴のあと相楽の低い声が聞こえた。

「うん。まあ…うん。そういうことだ。うん…。逢坂ごめんね。彼女のことは諦めてもらえると嬉しいかな」

ナイス相楽!


「尊敬する相楽さんのお相手が…よりによって来海さん…」

がっくり漫画のようにうなだれた逢坂くんは、よーーーく耳をすませないと聞き取れないような小声で「分かりました…」とつぶやいた。


ショックを隠してもいない彼を残したまま、私は相楽と会社をあとにしたのだった。