彼と私の間に、この三年の間なにかあっただろうか?
恋愛絡みのハプニングや胸キュンエピソードなどあっただろうか?
二人きりでご飯や飲みに行ったことなどあっただろうか?
休みの日にどこかへ出かけたことなどあっただろうか?

まずもってないじゃないか!!

「逢坂くん、知ってる?結婚ってさ、まずお付き合いを経てからするものなのね」

根本的なところから叩き直してやるとばかりに、握られた手を振りほどこうとしながら話を続ける。
いっこうに手は振りほどけそうにないが。

「その大事なお付き合いの部分をすっ飛ばして結婚ってできないじゃない?」

「それらしいことは何度も繰り返したじゃないですか」

「たとえば?」

言い返されると思っていなかったので、多少の戸惑いはありつつも聞き返す。

「チームのみんなで親睦会を兼ねて飲みに行ったり、打ち合わせがてらみんなでランチしたり、お疲れ様ってコーヒーご馳走してくれたり…」

「いやいやいやいやちょっと待ってそれ社会人として普通に同僚とやること!みんなやること!一対一で好意を持ってやることとは別のこと!恋人としてやることとは別のこと!」

逢坂くんの話があまりにも聞くに耐えないので、思わず一息で彼を遮ってまくしたててしまった。

そりゃそうだろう。
一般社会に出たら、会社員になったら、ごく日常でおこなわれるようなひとつひとつの出来事である。なんなら学生時代にもうそのへんのことは一通り学んでいるはずなのでは?


「えっ…じゃあ来海さん…、僕のこと好きなわけじゃ…」

ぽかんと口を開けて、だがしかし私の手はいまだに拘束したままの彼が少しばかりようやく動揺してくれた。
可哀想だが私の意思を伝えるべくたたみかける。

「逢坂くんのことは嫌いとかじゃないし、むしろ好きだし、可愛い後輩だと思ってるよ。ただ恋愛のそれとは違う“好き”ってことでそのへんはしっかり区別し…」

「ほら!好きって言ったじゃないですか!」

「私の話、ちゃんと聞いてるかなあ!?」