人もまばらな駅前の広場で、私は相楽と距離をとるように後ずさりした。
彼は距離を詰めようと近づいてくるわけでもなく、私のそれを面白いものでも見るように楽しげに眺めている。

「まあ、こういう日でもないと逆に大原って隙がないから」

「あるよ!それなりに隙はあるよ!」

「じゃあまだまだ俺は男としてだめだめだな」


にっこり笑った相楽は、だってさ、と続けた。

「てっきりまだあの男と付き合ってると思ってたから。彼氏持ちを誘うのって正直、自分なら嫌だし」

「だって別れた時、泣きはらした目で仕事に行くのが嫌で泣くの我慢したもん。隠してたもん」

「あー、そういうとこ、好き」


えーーーーーーーーっ。


私の中の勝手に作り上げた相楽律のイメージが百八十度変わった瞬間だった。
好きとかちゃんと言うんだ、この男!

「言っておくけど、ライトな好きじゃないよ、これ。絶対いつか別れると思って、俺はずっと待ってたの。彼女も作らずに」

相楽はシレッとそれなりに失礼なこともまじえて話しているが、本人はいたって至極真面目のようだ。
そして私の元彼がどんな人なのか知っているからこその発言だとも思う。


完全に思考が停止した私が何度か瞬きをしているうちに、相楽はいつの間にかもうそばまで来ていた。

「さて、どうする」

「どうするって…」

恋愛の好きかそれじゃないかの選択肢。
まさに少し前に逢坂くんと話した内容ではないか。