目の前に唐突に差し出された水色の小さな箱。

誰がどう見てもすぐに分かる有名ブランドのアクセサリーを象徴するその特徴的な色の箱の中に入っているものの予想は、この時点でおおかた想像はできた。


私はいま、オフィス内にて自分のデスクで仕事をしている。
そう、仕事中なのだ。
ただし時間外労働で、オフィスにみんないるのかと言ったらそうではない。

私と、その箱を差し出してきた彼だけ。


彼は震える手で何度も手こずりながらパカッと箱のフタを開けて、非常に緊張感のある声で

「は…は…初めて見た時から!決めてました!結婚するなら…来海さんがいいと…」

と、潤んだ瞳でこちらを見つめている。
まるで、捨てられた子猫のような目で。



PM二十二時半。
誰もいないオフィスに後輩の逢坂くんと二人きり。
大原来海、二十九歳、独身。
これほどまでに人生のピンチを、仕事以外で感じたことなどあっただろうか。いや、ない。たぶん、ない。絶対、ない!


キラキラ輝く一粒ダイヤと思われるエンゲージリング。
絶対に高価なものであることは明白である。

デスクの回転イスに座っている私に対して、逢坂くんは膝をついて指輪を掲げ、まさにドラマさながらのプロポーズ体勢でぷるぷるしていた。




―――――ここで、いったん整理しよう。

いったいなにがどうしてこうなったのか。