「のろけ話ですか?わあ、ぜひ聞かせてください。前崎さんとご主人の恋のお話、聞きたいです」


私は気持ちも前のめりで頷いた。

恋愛話といえば、まったく知らない人の話でも興味をそそられるものだが、それが自分と関係のある人となれば尚更だ。
今後の接し方のヒントになるものが見つかるかもしれないし、何かの手掛かりになるかもしれない。

嘘偽りなくのろけ話を歓迎する私に、前崎さんも気をよくしたように微笑んだ。



「そう言ってもらえてよかったわ。他人ののろけ話だなんて、眉をしかめる人も多いものね。でも、夫はとてもロマンチストだったの。だから岸里さんにも退屈させることはないと思うのよ?」

「そうなんですか?それは楽しみです」


お世辞でもなく、社交辞令でもない、私の心からの本音。

私は、これからどんな恋愛の物語を聞かせてもらえるのか、ドキドキと逸る想いを宥めるように、ペットボトルを膝の上できゅっと握っていた。


「じゃ、はじめるわよ?」

「はい。お願いします」

「もしかしたらちょっと長くなっちゃうかもしれないけど…」

「大丈夫です」

「途中でつまらなくなったら遠慮せずに言ってね?」

「大丈夫です!」


力を込めて答えると、前崎さんはそれはそれは愉快そうに目を細め、「それじゃ、まず、わたし達の出会いから………」と、大切な思い出のお裾分けをはじめてくれたのだった。