プロポーズを受けてからの日々は、いわゆる婚約期間となり、結婚にむけての準備段階に入っていった。

といっても、わたしの両親はすでに他界していたし、親戚付き合いもしておらず、仕事の翻訳もほとんど在宅での作業だったので、報告すべき相手はそこまで多くもなかった。

(あき)くんのご家族もお母さまお一人だし、付き合いはじめの頃に、『親戚と言って思い浮かぶのは叔父ひとりくらいだ』と聞いていたので、わたしは、もし結婚式を挙げるなら、わたし達二人と、彬くんのお母さま、そして叔父さまの四人で和やかにできればいいなと思っていた。
もしそうなったら、友人や彬くんの仕事関係の方には、二次会で挨拶させていただこう……
人生の節目の計画を練るのは、楽しい時間だった。


けれど、未来への期待に胸を躍らせる時間のちょっとした狭間には、あの日の違和感が重く沈み込んできたのも事実だった。
あの、プロポーズの日のことだ。

あの日、全体的に彬くんはいつもと違う雰囲気だったし、例の男の人の存在も、手首のほくろも、それから、意味不明のメッセージ……
どこの角度から思い返しても、あの日のことは、幸せ一色では見過ごせない不可解色が陰を落としていくのだから。
時にその陰は、幸せ色に混ざり込んで渦を巻き、わたしの心をざらつかせる。

キラキラと明るいものばかりではなく、ある意味玉石混淆でもある日々が続いた。
そしてそんな日々には、新たな ”違和感” も生まれていたのである。