『千代、返事は……?』

熱くなる感動のせいで言葉をなくしてしまったわたしに、彬くんが優しく催促してくる。
強請るような、恋人同士にしか許されない温度のそれに、わたしは、こくん、と一度頷いた。


『お願い、します……』

感極まっている途中では、そう答えるのが精いっぱいだった。

それでも、彬くんに大輪の笑顔を咲かせるには充分だったらしい。
彼はこの上なく、世界中の幸せを束ねたように破顔して、リングケースから指輪を抜き出し、わたしの薬指にスッと差し入れた。

彬くんの言った通り、それはまるでわたしの薬指に吸い付くようにピッタリで、ダイヤの大きさも、派手なものを好まないわたしにはちょうどいい。
キラキラと輝く小さな石は、わたし達のこれからの未来を照らしてくれるかのようにクリアに煌めいている。
綺麗で、上品で、それでいて可愛い、誓いの証だ。

わたしは自分の手に舞い降りたキラキラした ”約束” に、今まで生きてきた中で最高の歓喜を踊らせていた。


『ありがとう……、ありがとう、彬くん』


彬くんを(なら)ったわけではないけれど、自然と、二度繰り返していた。
気持ちが昂ると、言葉を二つ重ねてしまうものなのだろうか。
それとも、わたし達どちらかの癖が、長く一緒にいるうちにもう一方へ伝染(うつ)ってしまったのだろうか。
もし後者なら、嬉しいかもしれない。
そうやって、少しずつ、似た者夫婦になっていく予感しかないのだから。