「昨日は長い時間お話させてしまって、疲れが出てないか気になってたんです」
「あら、わたしから聞いて欲しいって言って話していたのだから、疲れなんか出るはずないわ。今日も早く岸里さんに夫の話を聞いてもらいたくて、うずうずしちゃってるんだから」
ふふふっと可愛らしい笑い息を転がせる前崎さんに、私はホッとする。
「それじゃ、今日も聞かせてもらえるんですね。私も、早く先が知りたくて、うずうずしてたんですよ」
上司との会話を打ち切らせるほどに、続きが気になっていたのだから。
「あら、そんなに?どこまで話してたのかしら」
意外そうに訊いてくる前崎さんに、私はすぐさま答える。
「前崎さんのご主人が一晩中前崎さんの命の恩人を探してた…というところでした。でも、前崎さんが仰るには、実はその晩、ご主人は前崎さんの恩人を探していたわけではない、と……」
「ああ、そうそう、そうだったわね」
前崎さんは小刻みに頷いたものの、
「でもそれは後でおいおい話すとして、とりあえず、わたしと夫のことをもう少し聞いてもらえるかしら?」
あくまで品よく丁寧に、それでも主導権を握ったまま、今宵も思い出話の扉を開いたのだった………