父方も母方も祖父母はとっくの昔に他界してるし、親戚との関係も希薄。
天涯孤独の一歩手前辺りに立たされてしまった………そんな途方もない寂寥感(せきりょうかん)や、拭いきれない喪失感、そしてこれからどうやって生きていけばいいのかという巨大な不安が、束になってわたしの心を、思考を、手足を縛りあげていく。


どうして、こんなことになったのだろう。
わたし、何か悪いことしたのかな。
わたしよりももっと酷いことしてきた人は大勢いるのに、どうして?
どうしてわたしは、お父さんもお母さんも、家族を奪われなきゃいけないの?


こんなのおかしい。
どうしてわたし一人がこの家に残ってるの?
お父さんもお母さんもいないのに、どうして?どうしてわたしだけが………


ぐるぐると、一向に出口が現れない真っ黒な渦に飲み込まれたわたしは、無理やり表情を繕わなくていい一人の時間を、どうやって過ごしていたのかさえ定かではない。


だからなのだろう。
彬くんもおらず、家で一人、ただ流れる時間を見送っていたある夜、わたしは、いつの間にか外にふらふらと歩き出ていたのだった。



何かの拍子にハッと気が付いたときは、家からかなり離れてるはずの繁華街を歩いていた。
わたしの意識を戻させたのは、車のクラクションだった。
大通り沿いの歩道を車道スレスレでおぼつかなく歩いていたわたしへの、注意喚起だったのかもしれない。
だがそのとき、わたしは、それまでに考えつかなかったことが頭を過ってしまったのだ。



このまま車道に出たら、
お父さんやお母さんのところへ行けるんじゃないか――――――



そんな考えは間違ってる。
正常な思考ならばそう引き止められるだろう。
でも今のわたしには、何が正常で何が正常じゃないのかさえも無感覚なのだ。

ただただ、二人に会いたい。
一人にしないで。
そうやって縋ってしまうのを、咎めることはできなかった。



やがて、それでもぼんやりと、わたしは、無数の車が行き交う夜の大通りに、その身を投じたのだった。