結果から言えば、前崎くんの叔父さんは、残念ながら有効な手がかりは持っていなかった。
でもそれは仕方ない。なにしろもう十年も前の話なのだから。

わたしはさほどがっかりしなかったのだけど、どういうわけか、前崎くんはそうではなかったようだった。
『ごめんな……』そう項垂れる姿は、どちらが当事者だったのかを勘違いしてしまいそうになるほどで。
わたしは『気にしないで。でもありがとう』と、本心からの笑顔を、優しいクラスメイトに返したのだった。


それでもまだ申し訳なさそうにしている前崎くんに、わたしは『もう、そんな顔しないでよ』と言いながら背中をバンッと大きく叩いた。

『ぃって……』


探し人に直結する手がかりは得られなかったけれど、前崎くんの叔父さんは、当時のことを少しだけ覚えていたようで、わたしの記憶に残ってなかったことを教えてくれたのだから。
それが恩人探しにどう役立つのかは見当もつかないものの、あの時のことを思い返すためのアイテムとしては大いに役立ってくれそうだった。


前崎くんの叔父さんの話によると、あの日、わたしが忍び込んだ小学校の裏門の鍵が外れていたのを目撃していたそうだ。
そして、その門はわずかに開いていた。それは、前崎くんの叔父さんにとっては狭いものだったけれど、小さな子供が通るにはじゅうぶんな隙間だった。
不用心だな、そう思った叔父さんは、けれど勝手に閉めてもいいのかも察せず、ま、いっか…と、また足を進めた。