「ああ、やっぱりアヤセさんね……」
自然と、私とは反対側の腕を支える上司に、前崎さんは感慨深げにこぼした。
「伺うのが遅くなってしまい、申し訳ありません」
「そんなのいいんです。こうして会いに来てくれたのだから……」
上司は仰々しく詫びたが、前崎さんは首を横に振って答えた。
「あの夜最後に会ってから、もう……何年かしら。長かったようにも、短かったようにも思えます。でも、時間を行き来できるあなたは、わたしとは違う感覚なのかもしれませんね」
懐かしそうに、想いを当時に馳せるように、”アヤセさん” に話しかける前崎さん。
いつの間にかその細い腕は両方とも ”アヤセさん” が支えていた。
「いえ、前崎さんと同じように、長かったようにも短かったようにも感じますよ」
「そう………。でもお元気そうでよかったです。それで、わたしに会いに来てくれたのは、きっと、理由があるんですよね?」
前崎さんのセリフには、息子さんの命の恩人である ”アヤセさん” との再会を喜びながらも、息子さんのことを早く知りたいという気持ちが溢れかえっていた。
そしてそんなことは承知している上司も、微笑みを保ったまま、
「はい、その通りです」
ゆっくりした瞬きとともに頷いたのである。
「約束を守るために、今宵、こちらにやって参りました」