わたし(・・・)達が出会ったのは、高校生になった春だった。
同じクラスで、たまたま隣の席になったのが、後に夫となる前崎 彬文(あきふみ)である。
物静かと言えば聞こえはいいけれど、あまりクラスに馴染もうとしないで、彼は独りでいるのが好きそうに見えた。
だからといって学級内に波風を立てがちなタイプというわけでもなく、ただ寡黙なだけだった。……少なくとも出会った頃のわたしは、彼のことをそう評していた。
けれど、隣の席から観察していくうちに、ちょっとずつ彼の人となりを覗き見できるようになると、決して寡黙とは言い切れないような気になっていった。


きっかけはよくある話で、わたしが落としたシャーペンを拾ってもらったことだ。
授業の終わり、起立した際に机に足をぶつけてしまい、端にあったシャーペンがコロコロと転がり落ちた。
彼…前崎くんはそれをサッと拾うと、礼をしながらわたしに差し出してくれたのである。


『あ、ありがとう……』


その素早くてスマートな所作に、わたしは驚くというよりも、見惚れてしまったのかもしれない。
お礼を述べる唇は、どこかぎこちなかった。
すると、前崎くんはわたしがシャーペンを受け取ったあとも、席につきながらじっとこちらを見てきたのだ。


『……まだ、なにか、あるの?』

隣の席になってからも会話らしい会話をしたことなかった前崎くんに、わたしは戸惑いを隠さずに尋ねた。
前崎くんが何か言いたそうな顔をしていたからだ。