「そうだったんですか」

「あなたはその後ぽろぽろと泣いていましたね。かわいそうだって思った自分が恥ずかしいって」

 貧しくても、子供たちは幸せそうに微笑んでいた。
 あの時小雀は、草鞋を編む子供たちに教えてもらったのだ。不幸かどうかは本人しかわからないということを。

 ある時、美しい着物に身を包んだまま息絶えた貴族の女性を見た。通う男もなく、生きる術を知らず、何もできないまま悲しみにくれて息を引き取る姫は少なくない。

 小雀の祖母もそうだった。

 家柄は良かったのに祖母の父が病気で亡くなった時から逆風が吹き、苦労が続いたらしい。小雀の母を抱え、夫にも使用人にも見捨てられ、そんな中、助けてくれたのは夜盗だったらしい。

 夜盗は母のことも実の娘のように可愛がってくれたという。彼は優しい義賊だった。

 祖母が亡くなって母が女官となって独り立ちするまで、ずっと見守ってくれたらしい。
 母は父のように慕っていたその夜盗の意思を継いで夜盗になったのだ。

「それからも時々あなたを見かけた。あれから二年くらい経ちました。本気でなんとかしなきゃって思いましてね」

 優弦は遠くを見るようにして微笑む。

「それから真剣に悲田院や施薬院で何が必要か、私はあなたを見ながら心を決めたんですよ」

 小雀の額に彼の唇が触れた。