幸い手の平の傷は目立たない。
 消えるまではもう少し時間が必要だけれど、少しも痛くない。

 というわけで、宮中に戻った小雀はせっせと裁縫に勤しんでいた。おとなしく。

「あら、小雀。一緒に戻る予定だったのに、今回は長いお休みだったのね」
 薄野が小雀の隣に腰を下ろし、一緒に作業を始めた。

「あはは。はい、すみません」
 傷は浅かったし優絃の薬がよく効いたので痛みもなかったけれど、一応念のためにと半月ほど休んだのである。
 次の日ちょっとだけ熱が出た。極度の緊張で疲れが出たのもあったのだろう。心の傷を癒やす必要もあった……。

 優弦は毎夜様子を見に来たけれど、怒ってはいなかった。

 その分母には散々しかられた。
 実は母にも止められていたのにこっそり行ったのである。佐助は止めきれなくて付いてきてくれただけだ。

 佐助の話によれば、あの夜優絃は小雀が眠りにつくまで見守っていてくれたらしい。
 十分反省しただろうから、叱らないであげてほしいと言っていたという。

 さすがに小雀も懲りた。
 今度こそ本当に余計なことは考えずおとなしくしていようと、黙々と縫物をしていると。

「あら、小雀。手どうたの?」
「え?」

 薄野が小雀の手の平を見ていた。

「あ、あはは。宿下がり中に転んでしまって」

「まあ大変」