夢かもしれない。確かめなきゃと顔をあげようとしたら、大きな手のひらが優希の頬を包みこんだ。互いの視線がぶつかりあう。禄朗も夢だと思っているのかもしれない。まだ受け止めきれないのか、不安げに瞳が揺れている。

「優希?」
「そうだよ」
「本物の優希?」
「そうだよ。禄朗だけの、ぼくだ」

 笑みを浮かべると初めて禄朗は瞬きをし、「おれの優希」と呟いた。それは聞いたことのないくらい弱く怯えた声色で、優希はしっかりと彼を抱きしめた。

「遅くなってごめん」

 温かなぬくもりに優希は頬をすり寄せた。以前よりほんの少し細くなった体。だけど禄朗の匂いがする。大好きで優希を翻弄する愛おしい存在。

「なんで、ここが?」
「Allyが連れてきてくれたんだ。みんな心配してるよ。一緒に帰ろう」

 まだ状況が飲み込めないのだろう。眉を寄せて優希の顔を覗き込んでくる。初めて見る禄朗の表情。急激におかしくなって笑い声を立てた。

「動揺する禄朗なんて初めて見たよ。レアだな」
「うるさい。だって、信じられないだろ……優希がいるなんて、もう二度と会えないと思っていたのに……本物なんだよな?」
「本物だよ。前に言ったよね、ここの星空を見せたいって。だから来た」
「よくわかったな」
「禄朗のことならわかるよ」

 見つめあっていると、ふいに禄朗から力が抜けた。

「来るのが遅い」

 すねる子供のように禄朗が唇を尖らせた。安心して優希に甘え切っているしぐさに、胸がきゅんと締めつけられた。

「ごめんね、待たせちゃったよね」
「ああ、何年待ったと思うんだ」

 ささやきにも満たない声が優希を呼び、存在を確かめるように一瞬だけ唇が触れた。ずっと外にいたせいで冷え切り、乾いた感触を追いかけようとして服をつかむ。

 瞬間、荒々しい口づけに襲われた。全て食い尽くしてしまいそうな、全身で求めている口づけに優希はその身をささげた。

 食われてしまってもいいと思った。禄朗と一つになれるなら。もう二度と離れなくて済むのなら、全て差し出してもいい。

 全身をまさぐるせわしない動きも、ぴったりと合わせたままほんの少しの隙間も許さないといわんばかりの口づけも、全て愛おしい。