優希が明日美に逃げた時でさえ、禄朗はそうじゃなかった。自分で立って迎えに行こうと、ずっとがんばってくれていたのに。

 再会した後も不実を責めないで、全部ひっくるめた優希を受け入れ、一緒に行こうと手を差し伸べてくれたのに。

 怖がって受け入れなかった優希の弱さが、禄朗を追い詰めたのか。明日美や花を不幸にしたように。今度は禄朗からもすべてを奪おうとしているのか。それだけは防がなきゃと唇をかみしめた。

 もう怖がって逃げるのはやめる。今度は優希が禄朗を助けに行く番だ。光の当たる世界へ連れていく。

「あれは、どこだった?なんて地名だった……?」


 __アメリカについたら連れてってやるよ。一緒に見よう。取り残されても二人だったら怖くないだろ。


 考えながらもパスポートを取り出した。いつでもいけるように更新だけは欠かさないでいたのをほめてあげたい。

 急いでネットを立ち上げ、航空券の手配をする。最悪ホテルは現地で調達すればいい。

 ポケットに入ったままのAllyの名刺を取り出し、これからアメリカに向かうことを告げた。

「禄朗の居場所がわかったの?」

 驚くAllyに禄朗の住んでいた場所などを聞きながら、急いでメモを取る。

「わからないけど、行くんだよ」
「今から?」

 とにかく取れる一番早い便に乗る。会社にも休む連絡をして、あと、何が必要だっけ。

 急な展開に驚きを隠せないでいるAllyと話していると、自分のすることがまとまっていくようだった。

 人と話すことはセラピーに繋がるのが分かる気がする。こうしたい、と言葉に出すことで自分の考えが客観的にわかっていく。そして現実味を増していく。

「パスポートは?」
「ある。現金も少しだけ、両替とかは後でなんとかなるよね?」
「わかった。ぼくも一緒に行こう」

 Allyは優希の決心を理解し、同行を申し出た。だがそれを丁重に断る。

「これはぼくと禄朗の問題なんだ。Allyの手は煩わせないよ」
「もとはといえばこちらの不手際で禄朗を失ったんだ。せめて現地まで。宿泊先はこちらでなんとかする。それくらいはさせてよ」

 Allyも引き下がらなかった。

 確かに彼は禄朗を探すために日本に来ているのだし、ここにいないのなら滞在する理由もないのだろう。

「わかった。でも禄朗を見つけるのはぼくだ」

 かつてないほど気持ちが高ぶっていた。