「花がおなかの中にやってきたときは幸せで、世界はバラ色に見えました。でも離婚したいといわれた時また捨てられるのが怖くて、ゆうちゃんの幸せを願ってあげられなかった。この先もずっとこうやって一緒に生きていきたいと欲張ってしまいました」

 だけど、と明日美はつづけた。

「好きな人を想い続けるゆうちゃんと、これ以上一緒にいることは不可能だと思いました。本当は一生隣にいて守ってあげたかった。ゆうちゃんの隣でずっと幸せに暮らしたかった。でも本当にあなたを愛してしまったから。わたしだけを愛してほしいと願ってしまったから。つらい時に、そばにいられなくてごめんなさい。離れていてもゆうちゃんの幸せを祈っています。ゆうちゃん!本当に、幸せになって!!いままでありがとう」

 何度も読み返して、くしゃくしゃになった手紙を握り締めながら優希は泣いた。

 あんなに優希のために尽くしてくれた明日美を裏切って、しあわせにするという約束さえ果たしてあげれなかった。

 優希の子供を産み、大事に育ててくれた明日美を大切にできなかった。いつだって、明日美じゃない誰かを選んでしまった。

 捨てられる痛みを誰より知っていたはずなのに。

「う……ああっ」

 声がかれて涙も出尽くした。もうどこにも力が残っていない。床にへたり込んで茫然としていたら、カーテンの外が薄明るく染まり始めていった。

 新しい夜明け。新しい一日。だけど優希にはもう何もない。隙間から差し込んだ一筋の光が照らした優希には、何も残っていなかった。