「大丈夫?ゆうちゃん、顔色悪いけど」
「あ、ごめん、大丈夫。ちょっと疲れたからかな……」
「そう?ご飯食べて、早く寝たら?」
「うん、そうさせてもらうよ」

 着替えるためにリビングを離れると、どっと疲れが襲ってきた。もう何もかもしたくない。このまますべてを放棄してしまいたかった。

 禄朗が触れた唇に指を這わす。Allyを喜ばせた口で優希を翻弄する彼に、たまらなく欲情した。あのままめちゃくちゃに抱いてほしかった。

 お前はおれのものだろ__そう昔と変わらない声で優希を求めてほしかった。

「……やめよう」

 いつまでも囚われ続けても仕方のないことなのに、もしあの時という未練がかすめていく。もしあの時、明日美を捨てて禄朗を追いかけていたら……今ごろ隣で笑っていたのは優希だったのだろうか。

 いや、と思い直す。

 もしもあの状態の明日美を捨てていたら、きっと優希は自分を許せなかっただろう。自責の念にかられ禄朗ともうまくいっていなかった。結局破局は免れなかっただろうと思う。

 花の笑顔を見ることもなく、あの子がこの世に存在しなかったかもしれないと思うと耐えられない。すべてこれでよかったのだと思いなおす。

 どっちみちもう答えはでていて、すれ違った道をやりなおすことは不可能なのだ。どこでどう間違えたのかいくら考えても答えは出ない。




 そして仕事中に電話が鳴ったのは、それから少し経ってからのことだった。