翌日の仕事帰り、駅までの道を凛と歩く。
「そっかぁ……相変わらずだったか」
「寧ろ、昔よりもっと嫌われてる気がする」
「何でだろね。ずっと会ってなかったなら、更に嫌われる理由なんてないと思うのに」
馴れ馴れしかったかな。
元々嫌われてるのに、仲のいい幼なじみみたいに話しかけられて、嫌だったのかも。
「うーん……何か、もっと他にありそうだけどな」
「私という存自体に、拒否反応が出るのかも」
「そういう時は、噛みついてこないもんだよ。無視しないで面と向かって拒否するのって、良くも悪くもある程度の気持ちがないと無理じゃないかな」
「……じゃあ、 “悪くも” だったんだ」
「今度呑みにでも行こー! あ、でも、お兄さんが過保護なんだっけ……」
「……おい」
ポツリと言ったわりに、自らしっかりと傷つく私にわざと明るく誘ってくれたのを低い声が遮る。
「……コウくん」
「用があって近くまで出たら、颯大が迎えに行けって言うから」
いきなり現れた理由を、コウは面倒くさそうに簡潔すぎるほど簡潔に説明してくれた。
「にゃっ……あ、ああー! では、私はこれで失礼をば……」
「い、いいよ! 途中まで一緒なんだし、三人で帰ろう」
「……別に、適度に離れてるから。前みたいに後ろ歩いてて、迷惑なこと叫ばれたくないだけだし」
この緊張感を、何と言おう。
ホームで電車を待っている間も、人混みのなか乗車する時も、電車内でも気まずいことこの上なかった。
「……凛、ありがと」
私がそうなんだから、たまたま居合わせた彼女はもっとそうだろう。
「ううんー? また明日ね。……えと、その。あなたは……」
「……なに」
ジロリと睨まれて、凛が一瞬ピクンと震える。
「……彼女に凄まないで」
「みづちゃん、大丈夫。それより、あなた……」
間に入ろうとするのを押し留めて一呼吸すると、凛がじっとコウくんを見上げた。
「……だから、なに」
「……ううんー? 何だか分からないけど、そういうこともあるかもなって思っただけ。失礼だから言わない」
「初対面の他人の顔それだけ見れば、十分失礼じゃねーの」
(……? )
確かに、彼女の行動は礼儀正しいとは言えないかもしれない。
でも、そんなのそもそもコウの方が余程失礼で感じ悪い。
何より、気まずそうに目を逸らしたのはコウの方だった。
(まあ、可愛い子にいきなり見上げられて、照れただけかもしれないけど)
何だろう。
なぜか、コウも凛もどちらにも引っ掛かるものがある。
「……行くぞ」
「じゃあねー! また明日。諸々、たぶん大丈夫だと思うよ」
「何それ」
無責任な軽い言い方だったけれど、気を遣ってくれたんだと分かる。
いつも以上にブンブンと大げさに腕を振って、背を向けた凛を見て少し元気が出てきた。
「フラフラすんな。颯大怒らせると面倒くさい」
「してないよ」
そう。
相変わらず、乱暴で横柄な口調だ。
でも――……。
(車道側、歩いてくれるの偶然じゃない)
この前もそうだったかもしれない。
ううん、きっとそうなんだろう。
そんなことを思う私は、また自分に都合のいいように捉えてるのかな。
それもきっと、正しいんだと思う。
――でも、コウが優しいのも、やっぱり本当だ。



