そんな感じで、コウとの仲を改善できないままその日を迎えた。
『お前はー、何の為に帰ってきたんだよ』
昨夜、一緒にお墓参りに行かずに家にいると言い張ったコウに颯ちゃんはそう言ったけれど、何となく分かってしまった。
コウは「一緒に行かない」と言っただけで、きっと一人で参りたかったんだと思う。
帰ってきた理由もきっと間違ってなくて、コウはやっぱり義理堅く優しさもあって、何より私の両親のことも大切に思ってくれている。
だから、私は何も言うことはできなかったし、無理強いできるものでもない。
それでも、颯ちゃんは三人じゃないと意味ないと主張して、結果的にコウの方が折れた。
「美月も航大も、元気に成長しています」
お墓の前で颯ちゃんが言うことは、毎年同じだ。
子どもの頃は結構しっかり笑ってしまって――この場で笑顔を見せたことに、颯ちゃんも少しほっとしたみたいに笑ってくれた。
数年経って、コウの姿がなくなってしばらく後は、「航大も」の部分でコウの生存確認が取れて私の方がほっとしていた。
正直に言うと年々笑えなくなってきてたけど、それでもクスリとはしなくちゃいけない気もしてた。
きっと、颯ちゃんは全部お見通しで、わざと大袈裟にそんな言い方をし続けていたんだと思う。
「颯ちゃんのそれを聞くと、一年経ったなぁって気がするね」
「恒例だからな。こう報告しないと、俺も落ち着かないから。二人とも、元気でやっててくれ」
「そのうち変わるだろ。毎年同じの方がどうかしてる」
「またお前は、そんなこと言って」
颯ちゃんはもう怒るまでもないというように呆れ声だったけど、言い方は悪くてもコウの言い分は内心正しいと思った。
コウも颯ちゃんも、もうそろそろ私に縛られず自由に生きていい。
颯ちゃんはもっと自分優先に過ごしてほしいし、コウだって私とセットじゃなくて好きに動いていい。
そんな当たり前のことが、あれからずっと難しかった。
両親がいなくなって寂しくて、他に頼る人もいないのを言い訳に二人にずっと甘えてた。
(……うん)
やっぱり、このままでいいわけがない。
それに、いくら私が嫌だと駄々を捏ねたって、コウの言うとおり、いつまでもずっと同じでいることは不可能なのだ。
(どうかしてるっていうか……)
――どんなに心地よくても、不自然、なんだと思う。
・・・
「あのね、颯ちゃん。コウくん」
「ダメだ」
帰宅して、コウが自室に戻る前にと切り出そうとしたけど、すぐさま颯ちゃんに遮られた。
「出ていくって言うんだろ。もう何度も、この前だって言ったよな。そんなことする必要ないって」
「そ、そうなんだけど、それだけじゃなくて。とにかく、最後まで聞いて」
「だから、三人でお茶なんて嫌だったんだ」とでも言いたそうなコウはそれでも黙ってソファに座ったままでいてくれて、寧ろ不機嫌なのは颯ちゃんの方みたいで少し怖い。
でも、今日こそは伝えなくちゃ。
「これも怒られるかもしれないけど、最初に言っとくね。私も大人になってちょっとは経ったし、お金も返す。ある程度纏まったお金とはいえ、もちろん今までのことを思えば全然足りないから、残りは月々少しずつになるけど」
「……美月」
学費とか、大きなイベントには両親の保険金とかが使われたと思うけど、生活費みたいな日々の細々とした出費の中には、颯ちゃんが働いて貯めたお金も絶対にあったはずだ。
「お前、ほとんど遊びとか服とかにはお金使ってこなかっただろ。いつかそんなこと言い出すと思ってた。俺はもっと、年頃らしく強請ってほしかったよ」
「性格的にあんまり気にならなかったのもあるし、そんなの苦じゃなかった」
寂しくなったり悲しくなったりした時は、いつだって颯ちゃんがいた。
コウだって、きっとこの家や私の両親のことを想ってくれてたと信じてた。
「私は昔も今も幸せで、十分すぎるほど貰って満ち足りてる。だからね、颯ちゃんもコウくんも」
――もっと我儘に、もっと自由に。昔を忘れてもいいから、幸せに生きてほしいの。



