あの日、小猫と出会ったから

「え……?」
 思わず聞き返していた。そんな台詞がお坊ちゃんの口から出るとは思わなかったから。
 リフは川面を見つめたまま立ち止まった。捨てられて、ひとりぼっちになった子猫みたいな……そう、出会った時のアイと同じような眼をしていた。
 と、小猫は俺を見上げて、ぱっと笑顔になる。
「それより、お兄ちゃんのあいぼーさん、どんなネコちゃん?」
 切り替え早いな。
「真っ白で、尻尾が長くて、賢い猫。まあ、目が特殊というか、怖いって言う奴もいるけど」
「目がいっぱいあるとか?」
 いや、それはあり得ないだろ。それに、そんな猫がいたら普通に怖い。
「まあ、それは見てのお楽しみ。それより、泊まってる所どこか思い出した?」
「尻尾にも目があるとか?」
 いや、ちゃんと人の話聞けよ、リフ。基本的な礼儀だぞ。と、心の中で説教する。
 不意にリフは、あ、と呟いた。
「ジェイミー、目が悪いの? 包帯?」
 おお、さっきまでお兄ちゃんだったのに、いきなり呼び捨てで来た。そして興味が次に移り変わってる。さすが子どもだ。
「ま、そんなとこかな」
 曖昧に答えておく。怯えて逃げられたら元も子もない。
 が、
「そんなとこって、どんなとこ?」
 とてもピュアな眼で尋ねられた。一瞬からかわれてるのかと思ったが、純粋に疑問らしい。
「あんまり見えてないってこと」
 大雑把に答えておく。
「どうして?」
 探究心旺盛だな。
「怪我したから」
「怪我?」
「そう。大分昔にな」
「そうなんだ」
 昔っていつ? と、さらに突っ込まれると思ったら、いきなりの退却。構えてた分、肩透かしをくった。
 何やら考え込んだ後、リフは真面目な顔で言った。
「目って、かたっぽ悪くすると、もうかたっぽも悪くなりやすいんだってね。気をつけてね」
「あ、そ、そうだな。気をつける」
 なんていうか、不思議な子だ。カモにするつもりで近づいたのに、気づけばこちらが振り回されているような気が、しないでもない。