あの日、小猫と出会ったから

「どうしてなんだよ……!」
 悔しくて、苦しくて。行き場の無い色んな感情が、大粒の雨になって零れ落ちる。
 どうして、掏摸になんかなったんだ。
 どうして、オッドアイになんかなったんだ。
 どうして、
「どうして一緒に連れてってくれなかったんだ……!」
 聞こえるはずの無い両親に向かって叫んだ。
 母さん、寂しいよ。そばに居てよ。どうして俺を置いていったの?
 父さん、苦しいよ。抱き締めてよ。俺はどうしたら良いの?
「どうして、なんだよ……」
 好きで独りになったんじゃ無い。好きでオッドアイになったんじゃ無い。なのに、どうして? どうして? どうして……。
 通りすがる人達の囁きも気にせず、俺はその場にうずくまって泣き続けた。涙が沁みた心の痛みは、いつか大将が手当てしてくれた消毒の痛みに似ていた。


 落ち着いた頃には、上空に月が出ていた。淡い光を腫れた目でぼんやりと見つめながら、レシュノルティアでも同じ月が見えてるだろうか、なんて思った。
 胸の奥はまだ痛むけれど、いいだけ泣いて空っぽになったのか、気持ちは軽くなった。
 ふと川音が聞こえて、周りを見回した。そして気がついた。
『迷子なの?』
 ここは、シェリフと初めて出会った、あの橋だ。
『宝石みたい。綺麗だね!』
『僕、怖くなんかないよ』
 あの出会いが無ければ、俺は一生変わろうと思わなかったかもしれない。
『ジェイミーは、僕の友達!』
 顔を上げる。空には星。雫が一つ、穏やかに頬を流れた。
 俺は、変わりたい。
 立ち上がり、相棒のいない我が家へ向かう。
 もう下は向かない。もう、逃げない。あいつの友達だと、胸を張って言えるようになるために。