あの日、小猫と出会ったから

 距離が近づくうち、お坊ちゃんが泣いている事に気付いた。大きな目から綺麗な雫がぽろぽろこぼれている。そうだよな、迷子になると不安だよな。見た感じ、七、八歳ってところか。
「…………」
 聞き取れないほどの小声で何か呟き、坊ちゃんは寂しそうに川面へと視線を落とした。
 声をかけるなら、今だ。
「どうしたの、こんな所で」
 通りがかりの気の良いお兄さんを演じてさりげなく声をかけると、お坊ちゃんはこちらを振り返った。
 不思議な色の瞳だった。水みたいに澄んだ、少し寂しげな青。そうだ、ずっと昔に見た海の色と似ている。
「もしかして、迷子?」
 お坊ちゃんは黙ったまま、潤んだ瞳でじぃっと俺を見つめてきた。その真っ直ぐな眼は、さっきの寂しさと合わせてほんの少しの好奇心を湛えている。
「うん、迷子だよ」
 わんわん泣き出すかと思ったが、殊の外落ち着いた答えが返ってきた。もしかしたら、泣くだけ泣いた後なのかもしれない。
「どうしたらいいか、分からないの。だからね、お空見てたの」
 星が出ているわけじゃ無し、空を見ても帰り道は分からないだろうに。ちょっと変わった子だ。
「送って行ってあげるよ。家はどこ?」
「えっとね、レシュノルティア」
 俺から目を逸らさないまま、お坊ちゃんは答えた。聞き間違いかと思った俺は聞き返す。
「……は?」
「レシュノルティアからね、来たの。大きなお船に乗ったんだよ」
 参ったな、旅行者かよ。てか、レシュノルティアってどの辺の国だったか。