あの日、小猫と出会ったから

 ナイジェルは俺を見つめた。さっきまでのキツイ感じがなくなり、弱気になっているように見える。理解し難い弟に手を焼き、腹を立てながらも、何だかだ言って心配してんだろう。本当、良い兄貴だ。
「お前にはよく懐いているようだから、僕たちが知らない何かを聞いているかと思ったんだが」
「いや、あいつ俺にも肝心な事は言わなかった。言えない、もしくは言いたくない理由があるんだよ、きっと」
「どんな理由だ」
 ニヤリと笑って意地悪く返す。
「それは君が解くべき難問でしょう? オニイサマ」
 ナイジェルの目が再び尖った。思ったより表情豊かだな。
「腹を立てたり、我が儘を言ったり。心配したり、不安になったり。そんな相手が……家族がいるって、幸せな事だぞ」
「え?」
 怪訝そうに問うナイジェルに、笑顔で本音を零す。
「単純で複雑、純粋で悪賢い。あんな可愛い弟がいるなんて、お前が羨ましいよ」
 ぽかんと口を開けて数十秒。ナイジェルは俺をしげしげと見つめて言った。
「何か今、相反する言葉ばかり聞いた気がするが」
「人の心って、白と黒の二色じゃ分けらんないからな」
 ナイジェルは長い溜息と共に考え込んだ。と、不意に顔を上げ、超絶真面目な顔で俺に向き合う。
「お前、変わった奴だな」
「どういう意味だよ」
「何て言うか、興味深い」
 ますますどういう意味だよ。
 そう言いかけた俺に、王太子は呟いた。
「……シェリフがお前について行った理由、何と無く分かった気がする」
「え、どんな理由だよ」
 一瞬口を開きかけ。次の瞬間、兄猫はニヤリと笑って意地悪く返してきた。
「それは君が考えるべき難問でしょう? オニイサン」
「うっ」
 くっそ可愛くない兄猫。どこが『慈愛深い』のか、やっぱりわからない。
 内心が顔に表れてたんだろう、ナイジェルは楽しそうに笑った。なんだ、こうして見ると普通の少年じゃないか。笑顔は中々に可愛い――
「お前、顔が面白い」
「人の顔見て笑うな!」
「すごい変な奴」
「さらっと変とか言うな!」
 やっぱり可愛くない!
 むかつく反面、大人たちに囲まれている時とは違う表情に、何だかほっとした。