あの日、小猫と出会ったから

 ナイジェル殿下は表情を変えずに俺をじっと見つめた。サラサラの金髪が風に揺れた。静かな声が、冷静に問う。
「故意にではなかったにせよ、シェリフは勝手な行動をして周囲に迷惑をかけた。自分の立場を認識せず、自分の行動が他者に及ぼす影響を分かっていない。アトラスさんが保護してくれたから良かったものの、万が一の事があれば国家間の火種ともなりうる結果になっていた。それでも、叱るなと?」
 ぐうの音も出ない、完璧な正論だった。黙って目を伏せる俺に背を向け、兄貴は歩き出す。後に残ったイルジアさんが、俺を見下ろしてジロリと睨んだ。
「他国の者とはいえ立場をわきまえろ、小僧」
「申し訳ありません」
「以後、無礼を重ねるようなら容赦はしない。肝に命じておけ」
「……はい」
 振り返らずに歩いていく王太子と側近の背中に頭を下げ、目を閉じた。
 立場……か。
 話を聞いてくれないと嘆く、シェリフの気持ちが少しだけ分かった気がした。


 その後、俺は逃げる間も無く両脇固めて連れて行かれ、シャワー室にぶちこまれた。それまで着ていたティーシャツとパーカー、多少ダメージのある着古したジーンズは綺麗さっぱり姿を消し、エディスさん達が用意したかっちりした服を着せられた。白のワイシャツ、一見黒に見える濃紺のスーツ、薄藍のネクタイ。
 こんな正装、ガキの頃に養護院で着たきりだ。なんか、ものっそい落ち着かない。
「意外に似合いますな。先程の浮浪児と同じとは思えない」
 カルミアさん、はっきり言うな。
「どうせなら髪も整えよう」
 エディスさんが提案する。何か、おもちゃにされてる気がする。
「いいですね。こうなったら徹底的に変身させましょう」
「いいって! 余計なことすんな!」
「お前に選択権は無い。大人しく座っていたまえ。それに、きちんと敬語を使え」
 エディスさんにパカパカと頭をはたかれた。失礼の無いようにって言われたのに、すでに失礼があるんじゃないか。まあ、イルジアさんやアークさんみたいに見下げる感じじゃないから、親しみを感じるけど。
「ああリサ、良い所に来た。こいつの整髪を頼む」
「畏まりました、エディス様」
「だから、いいって言っております」
「敬語が下手過ぎて、何を言っているのか理解出来ん」
 嘘つけ。聞く気無いだけだろ。