虹彩異色、オッドアイ。かなり珍しいからか、妖しい力を秘めた瞳だと太古の昔から言い伝えられている。まあ、他所の国でどう言われてんのかは知らないけど。
過去や心を見透かされるとか、大事な人との記憶を抜かれるとか、不吉かつ無責任な噂は事欠かない。酷いやつになると、目が合ったら殺されるなんて言う。色によって能力が違い、双方の色が違えば違うほど強い能力を秘めてるとかなんとか。
そんなのはお伽話の中だけだろって思う。実際、目が合った誰も死んだことなんて無い。過去なんざ話してくれなきゃ分かりっこ無いし、記憶操作なんて芸当出来た試しが無い。片方ずつ色が違う、ただそれだけの事。目の前の世界(いろ)を映し、人の表情を捉える。皆と同じ能力しかない、普通の眼だ。
でも、俺の眼を見てみんな逃げ出すって事は、そのお伽話が根強く信じられてるって事なんだろう。
『ばっ、化け物……!』
一昨日鉢合わせした奴の怯えた声を思い出す。俺の奥底に沈んでいる黒いものが揺らめく。孤独感、とでも表現すべきか。
「本当に、俺、化け物なのかな」
魚を平らげたアイに聞いて見た。素知らぬ顔で口の周りをなめている。
「どう思う? アイ」
腹が満ちて大満足なアイは、人の世の憂いなどお構いなしだ。くしくしと顔を洗っている。一通り綺麗にすると、俺の足元に寝そべり、くあ、と欠伸した。
くだらない事考えるな、生きてりゃそれでいいだろう。アイの仕草がそう言ってるように見えて、思わず微笑んだ。
「今日も生きてる。相棒のお前がいる。それでいっか」
頭を撫でてやると、喉をゴロゴロ言わせて眼を細める。アイと一緒に居ると『黒いもの』が影をひそめる。
溜めてる雨水でさっと水浴びし、ロウソクの灯を吹き消した。寝床代わりの押入れによじ登ると、アイが俺を見上げてにゃあと鳴いた。夜になるとアイは出かける。明け方にはここへ戻ってきて、俺の枕元で寝ている。
「あんま派手な喧嘩すんなよ」
返事の代わりか、尻尾をくるんと揺らしてアイは出て行った。
一人になると、遠い川の音が聞こえるほど静かになる。閉じ込めた心の声さえはっきり聞こえるほど、静かに。
――ほんとうに、このままでいいのか?
「じゃあどうしろってんだよ」
俺は大きく息をついて目を瞑った。薄布の中にもぐりこみ、言い訳を繰り返す。
「仕方ないだろ。……どうしようも無いんだ」
結局、明け方にアイが帰ってきて枕元に丸くなるまで、俺は眠れなかった。
過去や心を見透かされるとか、大事な人との記憶を抜かれるとか、不吉かつ無責任な噂は事欠かない。酷いやつになると、目が合ったら殺されるなんて言う。色によって能力が違い、双方の色が違えば違うほど強い能力を秘めてるとかなんとか。
そんなのはお伽話の中だけだろって思う。実際、目が合った誰も死んだことなんて無い。過去なんざ話してくれなきゃ分かりっこ無いし、記憶操作なんて芸当出来た試しが無い。片方ずつ色が違う、ただそれだけの事。目の前の世界(いろ)を映し、人の表情を捉える。皆と同じ能力しかない、普通の眼だ。
でも、俺の眼を見てみんな逃げ出すって事は、そのお伽話が根強く信じられてるって事なんだろう。
『ばっ、化け物……!』
一昨日鉢合わせした奴の怯えた声を思い出す。俺の奥底に沈んでいる黒いものが揺らめく。孤独感、とでも表現すべきか。
「本当に、俺、化け物なのかな」
魚を平らげたアイに聞いて見た。素知らぬ顔で口の周りをなめている。
「どう思う? アイ」
腹が満ちて大満足なアイは、人の世の憂いなどお構いなしだ。くしくしと顔を洗っている。一通り綺麗にすると、俺の足元に寝そべり、くあ、と欠伸した。
くだらない事考えるな、生きてりゃそれでいいだろう。アイの仕草がそう言ってるように見えて、思わず微笑んだ。
「今日も生きてる。相棒のお前がいる。それでいっか」
頭を撫でてやると、喉をゴロゴロ言わせて眼を細める。アイと一緒に居ると『黒いもの』が影をひそめる。
溜めてる雨水でさっと水浴びし、ロウソクの灯を吹き消した。寝床代わりの押入れによじ登ると、アイが俺を見上げてにゃあと鳴いた。夜になるとアイは出かける。明け方にはここへ戻ってきて、俺の枕元で寝ている。
「あんま派手な喧嘩すんなよ」
返事の代わりか、尻尾をくるんと揺らしてアイは出て行った。
一人になると、遠い川の音が聞こえるほど静かになる。閉じ込めた心の声さえはっきり聞こえるほど、静かに。
――ほんとうに、このままでいいのか?
「じゃあどうしろってんだよ」
俺は大きく息をついて目を瞑った。薄布の中にもぐりこみ、言い訳を繰り返す。
「仕方ないだろ。……どうしようも無いんだ」
結局、明け方にアイが帰ってきて枕元に丸くなるまで、俺は眠れなかった。



