「そういえば、昼飯も食ってないもんな」
俺は両手を上げて伸びをした。忘れずに眼帯を着けて立ち上がる。
「晩飯買ってくる。それまでここで待ってられるか?」
リフは素直に頷いた。まだ涙目だ。
「絶対にここを動くなよ。アイ、変な奴が来ないように見張り頼むな」
にゃあ、と一声鳴いてアイはリフのそばに寄り添った。すらりと凛々しいその佇まいは、主君を護る騎士みたいに見えた。
橋の上ですれ違いざまに、女連れの恰幅の良い酔っ払いとぶつかった。
「どこ見て歩いてんだぁ、クソガキぃ!」
「す、すみません」
下げた頭をでかい手でがっしりと掴まれた。相手は目がトロンとしていて、如何にも泥酔状態だ。
「前見て歩けぇ、この片目野郎!」
「すみませ……っ」
酔っ払いは太い脚で蹴りを入れて来た。意外に早い動きでかわしきれず、腹に命中。一瞬息が止まり、俺はそのまま地面に転がった。
「ああ? 謝って済むと思ってんのか!」
顔に腹に、痛みが降ってくる。酔ってる割には正確な蹴りだ。そのくせ、酔ってる分手加減無しというタチの悪さ。
「ご、めっ……な、さ……」
「ちょっと、やめなさいよ。こんな子ども相手にみっともない」
連れの女にたしなめられて、酔っ払いは悪態をつきながら去って行く。声が遠のき、二人の姿が見えなくなってから俺は起き上がった。
……一丁上がり。
ぽつり、心の中で呟く。切れた口端の血を右手で拭った。
さっきぶつかったのは、偶然じゃ無い。ボコられるのも計算のうちだ。腹を庇う振りをして上着の下に差し入れていた左手には、酔っ払いの懐から掏った財布を握っている。
素早く辺りを見回してから、財布を開けた。見るからに高そうな財布から、紙幣を三枚抜き取る。残りは財布ごと橋の上に投げ捨てた。まるで落し物であるかのように。
さて、財布が無い事に気付いて酔っ払いが戻って来る前に、飯買って帰らないと。
ポケットに紙幣をねじ込んだ瞬間、またあの声が聞こえてきた。
――ホントウニ、コノママデ、イイノカ?
その声から逃げるように、俺はがむしゃらに走った。背中に張り付いて執拗に問いかけてくる、そいつと向き合うのが怖かった。
「どうしろってんだよ、今更……」
息が切れる。体の何処かがひどく痛い。蹴られた場所じゃない、体の奥の何処かが。
「仕方ねぇだろ……分かんねぇよ、どうしたらいいか……」
どんなに言い訳を繰り返しても、その痛みは和らがなかった。
俺は両手を上げて伸びをした。忘れずに眼帯を着けて立ち上がる。
「晩飯買ってくる。それまでここで待ってられるか?」
リフは素直に頷いた。まだ涙目だ。
「絶対にここを動くなよ。アイ、変な奴が来ないように見張り頼むな」
にゃあ、と一声鳴いてアイはリフのそばに寄り添った。すらりと凛々しいその佇まいは、主君を護る騎士みたいに見えた。
橋の上ですれ違いざまに、女連れの恰幅の良い酔っ払いとぶつかった。
「どこ見て歩いてんだぁ、クソガキぃ!」
「す、すみません」
下げた頭をでかい手でがっしりと掴まれた。相手は目がトロンとしていて、如何にも泥酔状態だ。
「前見て歩けぇ、この片目野郎!」
「すみませ……っ」
酔っ払いは太い脚で蹴りを入れて来た。意外に早い動きでかわしきれず、腹に命中。一瞬息が止まり、俺はそのまま地面に転がった。
「ああ? 謝って済むと思ってんのか!」
顔に腹に、痛みが降ってくる。酔ってる割には正確な蹴りだ。そのくせ、酔ってる分手加減無しというタチの悪さ。
「ご、めっ……な、さ……」
「ちょっと、やめなさいよ。こんな子ども相手にみっともない」
連れの女にたしなめられて、酔っ払いは悪態をつきながら去って行く。声が遠のき、二人の姿が見えなくなってから俺は起き上がった。
……一丁上がり。
ぽつり、心の中で呟く。切れた口端の血を右手で拭った。
さっきぶつかったのは、偶然じゃ無い。ボコられるのも計算のうちだ。腹を庇う振りをして上着の下に差し入れていた左手には、酔っ払いの懐から掏った財布を握っている。
素早く辺りを見回してから、財布を開けた。見るからに高そうな財布から、紙幣を三枚抜き取る。残りは財布ごと橋の上に投げ捨てた。まるで落し物であるかのように。
さて、財布が無い事に気付いて酔っ払いが戻って来る前に、飯買って帰らないと。
ポケットに紙幣をねじ込んだ瞬間、またあの声が聞こえてきた。
――ホントウニ、コノママデ、イイノカ?
その声から逃げるように、俺はがむしゃらに走った。背中に張り付いて執拗に問いかけてくる、そいつと向き合うのが怖かった。
「どうしろってんだよ、今更……」
息が切れる。体の何処かがひどく痛い。蹴られた場所じゃない、体の奥の何処かが。
「仕方ねぇだろ……分かんねぇよ、どうしたらいいか……」
どんなに言い訳を繰り返しても、その痛みは和らがなかった。



