あの日、小猫と出会ったから

「は、恥ずかしいから、自分でやる」
 チッと舌打ちしてリフを睨む。良いとこの坊ちゃんは手当ての時肌を見せるのも恥ずかしいってか。
「男が恥ずかしがってんじゃねーよ。ほら、腕出せ」
 観念したリフの袖を捲る。丁寧に湿布を貼ろうとして……
「お前、何にぶつけたんだ?」
 腫れてるのは打ち身のせいでは無かった。傷が化膿しているようだ。熱も持っている。リフは黙っている。
 俺は箱から消毒とガーゼを取り出してきた。一応、応急手当てに必要な物は揃っている。簡単に医者なんか掛かれない身分だから。
 ふう、と大きなため息をついて俺は言った。
「言いたくないならそう言えよ。だんまりはずるいぞ」
「……授業でね、算数の時、コンパスを使ったの。あの、くるんて丸を書くやつ」
「で?」
「針をね、ちゃんとしまったはずなのに、しまってなかったの。そしたらね、刺さっちゃったの」
「ドジだな」
「もう! だから恥ずかしいって言ったのに!」
 リフはぷいとそっぽを向いてふくれた。白い頬が赤くなっている。俺からしたら大した事無くても、奴にとっては恥ずかしい失敗なんだろう。何だか、子どもらしくて可愛い。
 ぷくぅとふくれているリフのふわふわした頭を撫でて、俺は謝る。
「分かった、分かった、悪かったよ。ただ、消毒する時かなり痛いから我慢しろよ。それを我慢したら楽になるから」
「……うん、我慢する」
 宣言通り、リフは手当てが終わるまで声を出さなかった。大泣きされると懸念していたが、なかなかに我慢強い。可愛いわりに男じゃないか。まあ、痛そうな顔してぽろぽろ泣いてはいたけど。
「よし、終わり。頑張ったな、チビ助」
「ふぇ……」
 褒めてやると余計泣かれた。うーん、子どもの扱いはむつかしい。
 よほど痛かったらしく、リフはなかなか泣き止まなかった。とりあえず、落ち着くまで休ませてやることにした。
「よしよし、よく頑張った。偉い、偉い」
 きゅっと俺にしがみつき、リフは泣きじゃくる。柔らかい亜麻色の髪を宥めるように撫でてやる。
 ふと気付けば、小猫はいつの間にか俺の腕の中でぐっすり眠っていた。