亜里沙は最近、髪を切った。
背中まであるさらさらの黒髪をばっさり切って、ボブにしたのだ。
前髪も、眉上ぱっつん。
本人は切りすぎたって気にしてるけど、陽太的には、好みどんぴしゃだったらしい。
「あんなに可愛い子だったなんて、なんで今まで気づかなかったんだろう」
だってさ。鼻の下伸ばしちゃって。
亜里沙とわたしは、同じ吹奏楽部だ。
入部したその日にすぐ意気投合した。
以来、ずっと仲がいい。
バカなことも真面目なことも話すし、休みの日にはふたりで遊びに行く。
だから、陽太はわたしに、協力してくれって頼みこんできた。
どうしても亜里沙と仲良くなりたい、って。
ほんとに、世話の焼ける幼なじみ。
はあーあ、とため息をつくと、わたしはトランペットと譜面台を片づけはじめた。
「清水、今日はどうしたんだ?」
話しかけられて顔をあげる。
菊池先輩だ。
わがトランペットパートの3年生で、吹奏楽部長。
やさしいし楽器はうまいし、成績は優秀。端正な顔立ちにすらっとした体躯は、まさに少女まんがの世界から飛び出してきた王子様って感じ。
「ずっとぼんやりしてるし、悩みごとでもあるんじゃないのか」
先輩はかたちのいい眉を寄せた。
「今日はたくさん迷惑をかけてすみません」
わたしはぺこんと頭を下げた。
パート練習にも集中できなかったし、合奏でもミスを連発してしまった。
「別に謝らなくていいんだよ。ただ、珍しいなって思ってさ」
いつも真面目で一生懸命な清水が、と先輩はつづける。
なにも言えないでいると、先輩は苦笑した。
「ま、こんな日もあるよな」
こんな日もある、か……。
しっかりしなきゃ。わたしは自分のほっぺたを両手でぱしっとはさんで気合を入れた。
校舎を出て、オレンジ色に染まる空の下、亜里沙と並んで歩く。
部活のある日は、毎日、亜里沙と一緒に帰っている。
「ねえ、亜里沙」
「ん?」
亜里沙は歩きながらも、自分の前髪をしきりにさわっている。よっぽど気に入らないんだな。その髪が可愛いって思ってる男子もいるのに。
「亜里沙ってさ。どういう子がタイプ?」
「それって男子のこと? どうしたの、急に」
「ちょっと気になって」
「あたしは、クラクションズのともやんひとすじだよ。知ってるじゃん」
何を今さら、と言いたげに亜里沙はわたしを軽くにらんだ。
クラクションズは亜里沙がはまっている若手漫才コンビ。
ともやんは、ツッコミのイケメンのほう。
暇さえあれば亜里沙がネタ動画を見ていることもわたしは知っている。
「いや、そういうんじゃなくって。もっとこう、リアルなやつ。クラスの男子とか」
「ともやんはリアルじゃないの?」
亜里沙はほおをふくらませた。
ダメだ、こりゃ。
背中まであるさらさらの黒髪をばっさり切って、ボブにしたのだ。
前髪も、眉上ぱっつん。
本人は切りすぎたって気にしてるけど、陽太的には、好みどんぴしゃだったらしい。
「あんなに可愛い子だったなんて、なんで今まで気づかなかったんだろう」
だってさ。鼻の下伸ばしちゃって。
亜里沙とわたしは、同じ吹奏楽部だ。
入部したその日にすぐ意気投合した。
以来、ずっと仲がいい。
バカなことも真面目なことも話すし、休みの日にはふたりで遊びに行く。
だから、陽太はわたしに、協力してくれって頼みこんできた。
どうしても亜里沙と仲良くなりたい、って。
ほんとに、世話の焼ける幼なじみ。
はあーあ、とため息をつくと、わたしはトランペットと譜面台を片づけはじめた。
「清水、今日はどうしたんだ?」
話しかけられて顔をあげる。
菊池先輩だ。
わがトランペットパートの3年生で、吹奏楽部長。
やさしいし楽器はうまいし、成績は優秀。端正な顔立ちにすらっとした体躯は、まさに少女まんがの世界から飛び出してきた王子様って感じ。
「ずっとぼんやりしてるし、悩みごとでもあるんじゃないのか」
先輩はかたちのいい眉を寄せた。
「今日はたくさん迷惑をかけてすみません」
わたしはぺこんと頭を下げた。
パート練習にも集中できなかったし、合奏でもミスを連発してしまった。
「別に謝らなくていいんだよ。ただ、珍しいなって思ってさ」
いつも真面目で一生懸命な清水が、と先輩はつづける。
なにも言えないでいると、先輩は苦笑した。
「ま、こんな日もあるよな」
こんな日もある、か……。
しっかりしなきゃ。わたしは自分のほっぺたを両手でぱしっとはさんで気合を入れた。
校舎を出て、オレンジ色に染まる空の下、亜里沙と並んで歩く。
部活のある日は、毎日、亜里沙と一緒に帰っている。
「ねえ、亜里沙」
「ん?」
亜里沙は歩きながらも、自分の前髪をしきりにさわっている。よっぽど気に入らないんだな。その髪が可愛いって思ってる男子もいるのに。
「亜里沙ってさ。どういう子がタイプ?」
「それって男子のこと? どうしたの、急に」
「ちょっと気になって」
「あたしは、クラクションズのともやんひとすじだよ。知ってるじゃん」
何を今さら、と言いたげに亜里沙はわたしを軽くにらんだ。
クラクションズは亜里沙がはまっている若手漫才コンビ。
ともやんは、ツッコミのイケメンのほう。
暇さえあれば亜里沙がネタ動画を見ていることもわたしは知っている。
「いや、そういうんじゃなくって。もっとこう、リアルなやつ。クラスの男子とか」
「ともやんはリアルじゃないの?」
亜里沙はほおをふくらませた。
ダメだ、こりゃ。