「行く、って、どこに」
「……」
「家じゃ……ない、よな、」
「……」
「なぁ!」
「っ」

 鼓膜に刺さった大きな声に、びくりと肩が揺れる。

「……っ、ごめん、でかい声出して、」

 己に非があると感じれば、すぐに謝罪をしてその場を取り(つくろ)う。
 よくあるやり口だ。その証拠に、手首は離されない。

「……嫌な予感しかしない、から……このまま、大人しく車に乗って欲しい。近くのパーキングに、」
「……行かない」
「花梛、」
「……だって、車って、飲酒、」
「運転手がいる。それに、家に帰りたくないなら……俺の家でも、いいだろ」
「嫌。きみだけは、嫌」

 断固拒否。
 そんな姿勢を示した上でさらに口頭でそれを告げれば、手首に巻き付いている指の力が強まった。

「……俺だって、」
「っ」
「俺だって、花梛が俺以外のヤツのところに行くのが、嫌だ」

 痛いから、離して欲しい。
 それを口にしようと外していた視線を戻せば、今にも泣きそうな表情(かお)で目の前の男はそんな言葉を吐き捨てる。
 
「……利用しろよ、俺を、」

 ひどく、自分本位だ。
 しかし見知った顔だからか、「あなたには関係ないでしょう」と突っぱねることができなかった。