「待って!」

突然、氷彗に腕を引かれ
行く手を阻まれてしまった。

「え…どうしたの?」

「行かないで…」

掴んだ手を離すどころか
少しだけ力を入れて、行かせまいとしている。

月明りに照らされた氷彗は
お酒を飲んでいるはずなのに
まったくと言って良いほど顔色が変わらない。
それなのにも関わらず
お酒が相まってなのか目つきに色気を感じてしまう。

普段とは
少し様子が違う…

「詩菜…俺…」

「氷彗…?」

何か言いたそうに複雑に困った顔をしている彼が
少し心配になってしまい私は1度、席に戻ってみる。
もしかしたらアルコールに()てられてしまった?

「どうしたの?平気?
 水とか…いる?」

俯き加減に座る彼側に移動し
肩に触れようと手を伸ばした時だ。

ガタン――――

「えッ…」

氷彗がその場で急に立ち上がったせいで
思い切り引いた椅子が弾みで後ろに倒れてしまい
大きな音が響き渡る。

それも束の間
彼は私の腕をまたスッと自分の方へ引いてかと思うと
勢いで体がグラリとよろけてしまい
氷彗の胸に倒れ込んだ。

何が起きているのか
理解が追い付かない。

だけど現状
背中にまわされた手に、1つだけ確かな事がある。

なぜか私は
氷彗に抱きしめられている―――