お互い『初めまして』と頭を下げたところで
氷彗母は首を傾げて私に疑問を問い掛ける。

「氷彗の…彼女さん?」

「えッ、い、いえいえ!
 私はただの――」

言い掛けて悩んだ。
”友達”って関係ではないだろうし
ルームシェアの経緯を説明したとしても
『じゃぁなぜただの同居人が一緒にここに来た?』って話になる。
話がややこしくなるのは免れないのでは?

『うーん…』と難しい顔して考えていると
逆に弁明してくれのは氷彗母のだった。

「きっと詩菜さんは
 氷彗にとって大事な存在なんですね」

「え…」

「あの子が女性を連れてくるなんて初めて。
 人に対して拒絶ばかりしていたから
 心を許せる相手が出来た事が嬉しいわ」

ニコッと柔らかい笑顔を向けてくれるから
その純粋な母の優しさに
私は胸がギュッと、無性に切なくなってしまった。

お母さんがどんな人なのかは聞かなかったけど
とても優しい人なんだって。
父と子の間で確執があって
勘当(かんどう)に近い仲違(なかたが)いがあるのに
責める言い方をしない。

”優しく穏やかに見守る”
それは会話の節々に表れていた。

「子供の頃は仲が良かったのよ、あの2人。
 一人っ子だし、お父さんからしても可愛くて」

私は氷彗母と
散歩をするように内庭を並んで歩きながら話をした。