丸投げした当人は
『戸締りはしっかりしとけ』と
最後までノーヒントで仕事に出掛けてしまった。

入れ替わるように
2階から降りてきた氷彗。

すかさず泣きついたのは言うまでもない。

「氷彗!
 このやり方を教えてッ!」

「何事なのさ、いったい…」

壱琉が置いていった説明書を手に
いきなり詰め寄る私に彼は若干、引き気味。

それでもこの人なら教えてくれるはず。
実は面倒見が良いのは
前回の”ショッピング迷子事件”で実証済だから。

「あー…停電時の対処法ね」

私が、かくかくしかじかと簡単に説明すると
手にしている説明書に目を向ける事もなく
非常時用の電源の入れ方を教えてくれた。

やっぱさすがです、氷彗様。

「俺も今日は遅いから。
 まぁ頑張って。」

あいかわらず淡々としているけれど
不器用なだけで時折見える氷彗の優しさには
結構感謝してる。
彼が出掛けていく姿を見送りながら空を見上げると、雨が”しとしと”と降っている。
この様子なら
そこまで酷くはならないだろうと甘く考えていた。

…それがいけなかったのか―――――


昼過ぎから雨量は更に増え
窓ガラスがひしめくほどに風も強くなってきた。

「この家、大丈夫よね…」

吹き抜けの天井に向かって
不安が声になる。

こういう時の独りって
時間が長く感じる。