しかしそんな甘い内容じゃなかった。

「嘘…だ」

帰宅早々、着替える前にさっそく封を開け
三つ折りにされた紙を広げて、絶句した。


見出しの文字は
【取り壊しのため、立ち退きのお願い】

築年数が経ち劣化が始まっているこのアパート。
居住者の少なさに加え大家である”月影さん”は80歳を超える高齢で
金銭的にも管理が難しくなったためだと記されている。

「無理だよ。
 それでなくても職を失うのが確定なのに
 今ここで追い出されたら…」

想像しただけでゾッと背筋が凍り
寒くもないのに鳥肌が立つ。

書類の端を掴む手が震え
クシャクシャと皺が出来ていくけれど
そんな事を構ってはいられない。

立ち退きなんて冗談じゃない。
それでなくても一大事だっていうのに
これは本当にヤバい!

せめてどこか別の住む場所を提供してもらわないと、こんなの急すぎる。

明日は午前中だけ仕事。
ちょうど午後が空くから話をしてみよ。

人生が左右されるかもしれない状況に陥り
若干、興奮気味で眠れないまま
翌日を迎える事に――――


*****


「いきなり立ち退きなんて
 どういう事ですか!」

仕事が終わった足でソッコー管理会社に押し掛けて、送られてきた通知書を突き付けながら
対応してくれた20代くらいの若造(♂)に詰め寄って異議を唱えた。