嘲笑いに来たのなら
傘の1本でも貸してもらいたいものだ。
まぁこんな性悪男に
そんな優しさのカケラもないんだろうけど。

無視して歩き進めると
彼も車をゆっくりと走らせ
歩く私のペースに合わせ始め。

「おい、バカ女。
 止まれ」

おいおい。
黙って聞いてれば、さっきから”馬鹿、馬鹿”って
喧嘩売ってんの?

こんな奴の挑発に乗せられてる場合じゃない私は
完全無視を決め込んで
顔を向ける事もなく一心に前を進み続ける。

すると突然、彼は車をその場で完全に停車させ
降りてこちらへ駆け寄ってきた。
その手に傘を持って。

「ったく、めんどくせぇ強情な女だな」

目の前を立ちはだかる彼のせいで
私まで足を止めざるを得ないが
驚いた事に、傘を差して雨除けになってくれている。

「なッ…」

意外すぎるくらいの行動に
思わず顔を上げ目を合わせたまま固まってしまった。

「車に乗れ。
 家に戻る」

そう言うと私からキャリーバッグを掴み取り
軽々と持ち上げた。

せっかくここまで逃げてきたのに
また連れ戻されるって事?
冗談じゃない。

「連れて行くなら駅にして!」

この期に及んでまだ抵抗を続ける私に
彼は眉間に皺を寄せ明らかに面倒そうな表情をしている。