助けてくれたのは、彼。
血相を変え興奮からか息が上がったまま拳を握って男を睨んでいたが、私の声にハッとし『大丈夫かッ!?』って声を掛けながら手を伸ばしてくれた。
「なんとかね…
死ぬかと思ったけど」
引っ張ってもらいながら体を起こしたけれど
まだ少し怠さが残っていて気分も最悪。
だけどそんな事を言ってられる状況じゃなかった――――
私の眼に映る壱琉のすぐ背後に
のっそりと立ち上がり《《何か》》を手にした男の姿が視界に入る。
まさか…と思った時には
男はその《《何か》》を振り上げていた。
「壱琉ッ
危ないッ!」
そう叫んだ時には私の体は咄嗟に動いていて
”ドンっ”と、ありったけの力で彼を外へと押し戻していた。
…が、振り上げた男の動きは早く
私の目に飛び込んできた《《レンチ》》に反応出来なかった。
ドカッっと鈍い音と頭に響く痛みに
ぐらりと体が傾いていく。
何が起きたのか
まるでスローモーションのように全てがゆっくりと動き、車外へと放り投げられ地面へと叩きつけられた。
「詩菜…?」
ズキズキと脈打つような痛みに
ぼやっとする意識の中
血の気の引いた壱琉の顔と掠れた声が遠くに聞こえる。
「テメェ…よくも詩菜を…」
壱琉の怒りの矛先が男へと向けられたが
男はすぐさま車に乗り込みアクセルを踏み込んだ。



