車内に押し込めるのではなく
男は私の上に覆い被さるように座席に押し倒したのだ。
押さえつけられた体は身動きが取れない。
こんな体制
今から何をしようとしているのか容易に想像がつく。
「お前が彼氏を使って華恋に近付かせて脅している事はわかっているんだ!」
「なに言ってんのか全ッ然意味わかんないからッ」
「嘘をつくな!
華恋が言っていたんだ!
お前の差金だってな!!」
『えッ』っと驚くのも束の間
抵抗していた攻防戦は男の方が勝っていて
私の首を捉えて締め上げてきた。
「ゔっ…」
私はこんなところで
身に覚えのない理由で
知らない男に殺されるの?
苦しさと恐怖で涙が込み上げてきて
瞳に映る男の顔も視界がボヤけてハッキリしなくなり
必死に何かを掴もうとする両手は
弱々しく宙を仰ぐだけ。
『お前のせいでッ』と男の力は更に強くなり
本格的にもうダメだって覚悟までしてしまったその時。
男の背後に誰かの気配を感じ――――
『詩菜から離れろッ!!』と叫ぶような声と共に男の肩がグッと掴まれ、かと思えば一瞬にして男は車外へ放り出されていった。
「ゴホッ、ゴホッ」
一気に戻ってきた酸素のおかげで激しく咳込んでしまったが
虚ろに見えるその人物に、恐怖とは別の涙が溢れてくる。
「壱琉…ッ」



