「壱琉が誰とどうなろうと俺には関係ない。
だからここを出て彼女とヨリを戻すのは止めようとも思わない」
『ただ…』と言い掛けると壱琉はすかさず
『早く言えよ』と性急に次の言葉を求め
更に張りつめた空気が広がっていく。
そんな中でも氷彗は変わらず続け
「壱琉が家を出て行くなら俺達がここにいる理由はない。それなら俺は、詩菜と一緒にここを出る」
なんて言い出すから
扉の向こうで聞いていた私の方がビックリして
思わず『はっ』っと出そうになった声を押さえようと手で口を塞いで止めた。
「詩菜と一緒に出て行くって
あの女の雇い主は俺だぞ。
お前1人で勝手に決めるな」
「言うと思った。
だけどこっちも詩菜に話はしてある。
前向きに考えてくれてるから
“勝手”ではないよね」
『認めねぇ』と突っぱねる壱琉への対策は予め講じていたようで、切り札のように私を引き合いに出してきたけど…
私自身まだ何も決まっていないのに
複雑な状況に投げ入れられて
余計にどうすればいいのかわからなくなる。
「氷彗お前
俺がここに残るって言っても
どうせ出て行くんだろ」
壱琉は相当イライラしているらしく
スーツの胸ポケットから電子煙草を取り出す動きも荒っぽくなっている。
「よくわかってんじゃん」
嘘。そうなの?



