最初っから気付いていたなんて
隠れていた意味がまるでないじゃない。

とりあえず『申し訳ない』と謝罪してみるが
やはり気になるのは、彼女に対しての壱琉の態度。

「さっきの女の人に会った時
 ヤケに嬉しそうだったじゃん」

「は?なに言ってんだ。
 くだらねー」

照れ隠しなのか
またいつも通りの不愛想野郎が戻ってきた。
そのスイッチの切り替えはアッパレだよ。

「壱琉にあんな可愛い知り合いがいたとはねぇ」

飲み終わったコーヒーカップをシンクに片付けつつ電子タバコを吸いながらスマホを弄る壱琉に
それとなく聞き出そうとするが、まったく動揺する様子もなく。

それどころか、フッと笑って。

「確かに可愛いよなぁ
 アンタと違って」

「なッ!?」

「清楚で上品で女らしくて。
 少しはアンタも見習え」

「…ッ」

クソぉぉぉ
バカにされたぁぁぁ
いちいち 一言も二言も多いんだよ!
悪かったわね、女らしくなくて!
大きなお世話だ!

イライラして
つい洗い物に力が入ってしまい
『いけないいけない。落ち着こう。』と
小さく深呼吸。

反撃したところで倍になって返ってくるだけと
気持ちをグッと堪え我慢。

こっちの気も知らないで
当の本人はタバコを吸いながら
ボーッと遠くを見つめている。


“記憶に想いを馳せる”

そんな風にも見えて
なんとなくの勘だけど
たぶんまだ、彼女の事が好きなのかもしれない…と
そう思えて仕方なかった―――――