『ねぇ、梶谷君』【現代・短編】

「ここに居たら、人も元気になるのかな……?」
 梶谷君がふとそんなことを言う。
「でも、人間の場合、パワースポット行くと金運が上がるとか恋愛運が上がるとかそういうのじゃなかったっけ?未だに効果はないけど……」
 先輩たちの顔を思い出すけれど……。お金ないーって口癖の先輩がいたな。うん、効果はなさそうだな。
「由岸先輩、恋愛運が上がらないと思うのは、片思いだから?それとも男運が悪いから?」
「え?私の恋愛運?」
 彼氏がいないのは恋愛運が悪いから?でも、欲しいわけじゃないしなぁ……。
「梶谷君は、モテそうだよね。恋愛運いいんじゃない?」
 男としては少し線が細くて頼りがいがなさそうだけれど。
 整った、いわゆる男性アイドル系の顔してるし、身長高いし。
 皮肉でも何でもなくそう思ったんだけど、梶谷君は寂しそうな表情を見せた。
「僕のこと好きになる子も、僕が好きになる子も恋愛運ないんだろうな……」
 ん?
「なにそれ。梶谷君を取り合って女子が喧嘩でもした?」
 追肥し終わり、残った肥料の入った袋の口を閉じる。
 シャベルや軍手、帽子などの用具と一緒に、畑の隅に置かれた用具小屋ならぬ、用具保管用物置に入れて鍵をかける。
「僕は……」
 いつの間にか私の後ろに立っていた梶谷君の手が、伸びて、鍵穴に手を伸ばした私の手に触れていた。
「僕は、好きな子には僕を好きになってほしくない……。だから、僕は好きになりたくないんだ……」
 苦しそうに、吐き出すように紡がれた擦れた声が頭のすぐ上から振ってくる。
 驚いて振り返った先に、ブリキのバケツが突き出された。
「忘れ物、これもしまわないとだめでしょ?」
「あ、そっか。ありがとう」
 鍵をかける手を止めたのはこのためなのか。梶谷君が椅子にしてたんだっけ。
 バケツを入れるためにもう一度物置の扉を開ける。
「あれが、種?」