『ねぇ、梶谷君』【現代・短編】

「あんまり遅いと確かに緑のカーテンとして成長する前に夏休みになっちゃうけど、十分間に合うよ?」

 火曜日。
「由岸先輩何をしてるの?」
「ああ、ゴーヤを植えるためのプランターを用意してるんだよ。窓辺に並べて土を入れておくの。網の設置は顧問に頼んで準備してもらってる」
 60センチほどの横長の大きなプランターを校舎の南側にずらりと並べるわけだから、全部で50ほど。
 そこに土を一輪車で運んで入れて行く。昨年は、先輩たちと3人で作業した。今年は一人。
「ごめんね……手伝えなくて……」
 申し訳なさそうに梶谷君が頭を下げて帰っていった。
 後姿を眺めながら……。
「手伝ってくれなくてもいいから、いてほしかったな……」

 水曜日。
「ああ、由岸、手伝うよ。何をどうすればいい?」
 いつものように畑……じゃなくて花壇へ向かうと、野球部1年生と野球部の顧問の先生がいた。
「手伝うって?」
「今年は園芸部一人なんだってな。緑のカーテン用のプランター準備が大変だって、梶谷に聞いてな。学校のための活動だからな。協力させてくれ」
「梶谷くんが?」
 手伝えないのがよほど申し訳ないと思ったのかな?
 そうか。先生にお願いしてくれたんだ。
 一人の作業じゃなくなったけれど、それでもなんだか少し寂しかった。
 梶谷君は今日は来ないんだ。

 木曜日。
「何してるの?」
 畑……花壇に行くと、梶谷君がゴーヤの植えてあるところにしゃがみ込んで何かしていた。
「ほら、15センチ!」
 近づいて確認すると、定規を片手にどや顔で梶谷君がゴーヤの苗の長さを図っていた。
「これも、あれも、それも、15センチ以上あるよ。あれはまだ12センチしかなかった」
 ふっ。
「ふふふっ。そんなに厳密じゃなくていいんだよ。でも、せっかくだから15センチ超えたのから植え替えようか。一度には無理だから」