『ねぇ、梶谷君』【現代・短編】

 後ろから物置の中を覗き込んだ梶谷君が、ゴーヤの種と書かれた袋を見つけて指さした。
「見る?」
 袋の中から、種を5つ6つ取り出して梶谷君の手の上に載せる。
「ゴーヤの実って、でこぼこしてるでしょ?種もでこぼこしてるの。面白いでしょう?」
 ガチャリと今度こそ物置に鍵をかける。
「植えていい?」
「え?いいけど、だったらもっと蒔く?ゴーヤって発芽率が低いから」
 もう一度物置を開けようとする手を梶谷君がつかんだ。
 ふわっ。
 異性に手をつかまれるのとか慣れてないからびっくりするって!
「教えて、どうやって蒔くの?」
 本当は、硬い種の先を少し切ってやったり、水に浸してやったりと、手をかけた方が発芽しやすいけれど……。
 細かい説明はやめた。
 小難しいって思われて園芸は無理だと思われてもいやだし。
「芽が出るといいね」
 自分の蒔いた種が芽を出し成長していく姿を見たら、梶谷君、園芸部に入ってくれるかもしれないなぁ。
 頑張ってお世話しよう。
「あ、そういえば、サボテンのこと聞きにきたんだっけ?」
「そうだった。室内でも世話が簡単なサボテンが知りたいんだけど」
「私もあまり詳しくないから、先輩に聞いてみるよ。返事は明日でいい?」

 次の日。
「来ないなぁ……」
 放課後。水やりに草むしりと、作業を終える時間になっても梶谷君は現れなかった。
 せっかく、サボテンの話、しようと思ったのに。
 昨日と一昨日は単なる気まぐれで……もう来てくれないのかもしれない。
「一人に戻るだけ……」
 なのに、寂しい。
 一人の部活動って、こんなに寂しかったっけ?

 土日をはさんで月曜日。
「来ないかもしれないけどさ……」
 梶谷君が座っていたブリキのバケツの椅子に、昨日買った鉢を乗せる。
「あれ?先客がいる」
 来た!
 来た、来た!
「待ってたんだよ」