体ばかりか、心までも洸暉に囚われてゆこうとしている———

そんな自分のありようを見つめながら、心のまったく別の場所では、ひとつの思念が形をもってゆく。

志深を出る、この場所を離れるのだ、と。

親は永遠に自分を庇護し甘やかしてくれると無邪気に信じ、私立の女子校という箱庭のような楽園(サンクチュアリ)で友達と戯れていた頃が、遠い昔のようだ。

世間の厳しさと自分の無力さを思い知り、涙をたっぷり呑んだのち、この先どうすればいいのか。

こんな窮屈な田舎町にいたくない、と東京に飛び出していったひとりの少女は、そのおよそ二十年後、娘を連れて出戻るしかなかった。
母の二の舞はしたくない。

母になかったものはなんだろう、と考えたときに、おぼろげながら自分にできるかもしれないことが見えてきた。