帰宅後、ノートを見ながら携帯でネットの検索サイトに例の数式を入力してみた。
あっさりヒットがあり、検索結果がずらりと並ぶ。

ネット辞典のサイトを開いてみると、虚数、とあった。聞いたことのない単語だ。
なんだそれは、と思いながらページに目を走らせる。

z = a + bi

は虚数なる、実数ではない複素数(といわれても意味はさっぱりだ)を表す数式らしい。
数式の最後のiとは虚数単位i = √−1
を表す記号であり、虚数とは〈想像上の数〉を意味するimaginary numberを訳した言葉で…あちこちのサイトを読み漁ったところで、理解どころか輪郭すらつかめない。

それなのに、指が止まらないのはなぜなのか。
どうして洸暉はこの数式を、自分とひとりの少女に当てはめたのか。

左胸の奥が、脈打って疼いてたまらない。

虚数、i…

すべてはつまり、虚数≒実体なきもの、と告げているのか。
もしくは i=自分、とでも?
あるいは——— i=愛、なのだとしたら…

恋なんかするには傷つきすぎているのに、涙あふれるのはなぜなのか。携帯を握りしめたまま、ベッドで赤子のように身を丸める。
解が知りたいと苦しいほどに求めても、それが得られないことだけが分かっているのだ。